漢方のポータルサイト|漢方ビュートップ/特別取材 震災現場の漢方Vol.1 被災地の医療支援を行われている髙山先生を訪ねて

インタビュー

特別取材

被災地の医療支援を行われている髙山先生を訪ねて 東北大学病院 漢方内科 講師 髙山真先生|漢方の正しい知識や漢方の魅力をご紹介いたします|漢方ビュー

東日本大震災から9ヶ月。被災地の人たちだけではなく、被災地以外の人たちの間にも心や体の問題が出てきているといわれています。
そこで漢方ビューでは、被災地の医療支援にもあたられている東北大学病院漢方内科の髙山真先生に話をお伺いしました。

髙山真先生 東北大学病院 漢方内科 講師
1997年宮崎医科大学医学部卒業。2010年東北大学大学院卒業、医学博士。2010年から半年間、ドイツのミュンヘン大学麻酔科に留学。2011年4月から東北大学大学院医学系研究科、先進漢方治療医学講座の講師。2012年10月より東北大学大学院医学系研究科 総合地域医療研修センター 准教授(現職)。
所属学会:日本内科学会認定内科医、総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本東洋医学会漢方専門医、指導医、日本温泉気候療法物理医学会温泉療法医

PART1 震災にも有効だった漢方薬

--3月11日の震災で、東北大学病院がある仙台もかなりダメージを受けたと伺いましたが、当時、病院はどのような状態だったのでしょうか。

髙山先生:さいわい建物の構造にはそれほど問題はありませんでした。ただ、水道、ガス、電気という、いわゆるライフラインが遮断されてしまった上、ガソリンも足りない。そのような状態で救急搬送された患者さんを診ていたそうです。これは、そのとき病院にいた先生から聞いた話です。

--髙山先生は、震災発生時はどちらにいらっしゃったのですか?

髙山真先生

髙山先生:ドイツに留学中だったので、震災はドイツのニュースで知りました。周囲には危険だからと帰国を止められたのですが、テレビで、たくさんの医師仲間が石巻赤十字病院で救護活動をしているのを見て、一刻も早く戻らなければと思い、すぐに帰国しました。その後、病院内での診療や石巻での医療支援にあたりました。

--具体的にどのような活動をされたのでしょうか。

髙山先生:避難所を回る巡回診療をしていました。石巻地区で唯一残った災害拠点病院である、石巻赤十字病院が把握していた避難所をいくつかのエリアに分け、エリアごとに医療支援をしていました。私は蛇田中学校、向陽コミュニティセンター、青葉中学校などに行きました。

感染症対策・感染予防

--避難所でまず問題になったのはどのような症状だったのでしょうか。

髙山先生:あのとき、私たち医療班ができることは感染症対策でした。寒いのでインフルエンザが流行し始めていましたし、衛生状態もよくないのでウイルス性の胃腸炎も広まっていました。症状を訴える方のお話を聞き、西洋薬に加えて、必要あれば漢方薬もお渡ししていました。

--災害時に漢方薬というのは、意外な気もします。

髙山真先生

髙山先生:確かに、漢方薬は長く飲まないと効かないというイメージがありますが、症状によっては速効性があるものもあります。例えば、ウイルス性胃腸炎の子どもに漢方薬を処方すると、マイルドに吐き気や下痢を抑えられるので、食べものや飲みものもとることができるようになりますし、便の回数も改善します。本人も楽になりますし、周りの人への感染も予防できます。集団生活では、感染を広げないことが大切ですので、漢方薬は予防的な観点からも有効でしたね。

冷え・低体温症、寒気

--ほかに、どのような場面で漢方薬を使われたのでしょうか。

髙山真先生

髙山先生:最初に被災地に入った岩崎鋼先生(現在は西多賀病院漢方内科)によると、冷えや低体温の方に使うことが多かったようです。震災直後は冬でしたから寒く、避難所を温めたくても燃料も、毛布もありません。ブルーシートの上で休んでいる状態だったので、体が冷え切って動けない方もたくさんおられたんですね。漢方薬は昔から体を温める作用が知られていますので、そういう方に飲んでもらっていました。

--まさに、漢方薬の必要性を感じる場面ですね。

髙山先生:食べものもなく、熱となるエネルギーをとることもむずかしい中、漢方薬で少しだけ元気を取り戻してくれる方がいたことは、とてもありがたいことでした。

花粉症などアレルギー症状

--震災から日が経つにしたがい、被災地の方の症状にも変化がありましたでしょうか。

髙山真先生

髙山先生:春になって雪が溶けると、津波で運ばれてきた土砂、がれき、ヘドロが空気中を舞うようになりました。花粉症の時期でもあったので、ほとんどの方が鼻水や目のかゆみ、空咳などの症状を訴え、のどや胸のあたりがかゆいとおっしゃる方もいました。また、そのころから、がれきの撤去作業を始める男性もいらっしゃいましたが、外で付いたホコリが避難所に持ち込まれ、室内で舞ってしまい、夜になると咳が止まらず眠れなかったり、朝になっても疲れがとれなくて体調を崩すという悪循環が続いていた感じです。

--咳をしている方も、周りに迷惑がかかるからと必死で咳を止めたと伺いました。

髙山先生:当時は、鼻水には抗アレルギー薬、咳には咳止め、目のかゆみには点眼薬を使っていたのですが、眠くなる、あるいは眠くならなくても注意力散漫になって、仕事の効率が下がると訴える方が増えてきました。薬でボーッとなっているのか、睡眠不足や疲れでボーッとなっているのか分からないけれど、何とかしないといけない。そこで私たちはそういった方たちには漢方薬を飲んでもらうようにしました。飲んだ方からは、症状も取れて、頭もスッキリした、仕事の効率が上がった、という声が聞かれました。夜間に治まらない咳にも漢方薬を使いましたが、本人の自覚症状の改善だけではなく、まわりに迷惑をかけているという気持ちも和らいだようでした。

いらだちや不安感

--その後は、どんな症状が出ていますか?

髙山先生:震災から1カ月ぐらいが過ぎると、いらだちや不安感を訴える方が増えてきました。仮設住宅のこと、仕事のこと、将来のことはもちろん、繰り返し襲ってきた余震もストレスの一因だったと思います。ほとんどの方が夜眠れなかったので、睡眠導入薬を使ったり、いらだちや不安感がある方には漢方薬を使いました。

--ほかに、便秘も問題になったそうですが。

髙山真先生

髙山先生:避難所ではプライバシーがないので、トイレを気にして水分を控える方がたくさんおられました。それにより便が硬くなって便秘になってしまうんですね。炭水化物中心で食物繊維がとれない食事も便秘の原因でした。そういう方にも漢方薬が有効でした。

--お話をうかがっていて、時期によって被災地の方がさまざまな症状に悩まされてきたことに、大変衝撃を受けました。

髙山先生:今回、災害時の救急では、発生時から時間が過ぎるにつれて、訴えられる症状が変化していくということを実感し、どういう治療や薬がどのタイミングで必要なのかということがよく分かりました。また個人的には、漢方では話を聞く、触れるなど五感を使って症状や体質を診ていきますので、血圧計や体温計がなくても診察、処方ができるという点で、漢方は災害時や震災時にとても有効だと感じました。

--震災から9カ月が過ぎ、また寒い冬がやってきました。

髙山先生:これからの寒い時期には風邪などの感染症が増えてくると予想されます。とくに年配の人の芯からの冷えを伴う風邪は、西洋薬だけではなかなか治療がむずかしい。治療に漢方薬を用いることも考えていく必要があるでしょう。

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PART2 心と体の健康を取り戻すには?

被災していなくても体調不良に

--震災から半年以上経ちますが、被災地の人、被災地以外の人にかかわらず、今もなお心と体の不調を訴える人がいると聞いています。

髙山先生:「何となく体調が悪い」といって受診される方は、あの日以降、確かに増えています。震災をきっかけに症状が出た方もいますが、それより震災後に、前からあった症状が悪化したという方のほうが多いですね。震災後に続いた余震で症状が出たり、悪くなったりした方もいました。「前は緊張したときに耳鳴りがする程度だったが、震災後は始終、耳鳴りが止まらない」とか、「前から立ちくらみはあったけれど、いまはふらつきがひどくて外に出られなくなった、車の運転ができなくなった」とか。

--漢方医学的に見ると、どういうことが体で起こっていると考えられますか?

髙山真先生

髙山先生:震災以来、積もり積もったさまざまな負荷によって、体の中からいろいろなものが失われている状態になっていますね。具体的にいえば、エネルギー不足である「気虚(ききょ)」や、栄養成分の不足である「血虚(けっきょ)」です。気虚ではだるい、気力が湧かないといった症状が、血虚では不安感、不眠といった症状が起こります。せっかくエネルギーがあってもそれがうまく巡らない「気帯(きたい)」の方もいます。イライラ、便秘などが代表的な症状です。

--こうした症状は本人にしか分からないだけに、つらいですね。

髙山先生:原因となる問題を解決できると症状は治まることが多いのですが、このような状況では、なかなかそうもいきません。ですから、こうした方には西洋薬や漢方薬で補うことが大切だと考えています。この前も、震災をきっかけに会社を休むほど体調を崩されていた方が、西洋薬と漢方薬で元気を取り戻し、職場復帰を果たしました。ほかにも、そういう方々がたくさんおられます。

--心の症状では、西洋薬と漢方薬の両方を処方されるのですね。

髙山先生:最近、外来で「気分がふさぎがち」とか、「気持ちがコントロールできない」とおっしゃる方が多く来られます。診察の際にお話を伺い、西洋薬の抗不安薬を処方する場合もありますし、漢方薬を処方する場合もあります。漢方薬にも心の症状に対応できるものがあり、飲むと気持ちがスカッとして、仕事や勉強がはかどったりするようです。要は震災を機に始まった悪循環を断つことができれば、また元気を取り戻すことができる。漢方はそのお手伝いをしているのだと思います。

--では、ちょっとおかしい、調子悪いと思った程度でも病院に行くべきですか?

髙山真先生

髙山先生:その判断はむずかしいです。一時的なもので何もしなくても良くなるものかもしれませんし、慢性的でどんどん悪くなるものかもしれません。日常生活や仕事に支障が出るというようであれば受診されたほうがいいですね。なかには「被災者のこと、あるいは自分より大変な思いをされた方のことを考えると、これくらいのことで病院に行くのは申し訳ない」という方もいますが、気虚や血虚も長引けば、単なる不調ではなく、病気になってしまいます。こじらせる前の対応が大切です。

--確かに「これくらいの不調なら」ということでがまんしている人が多いかもしれませんが、病院へ行って医師に相談することが大切ということですね。今日は、大切なお話を伺うことができました。ありがとうございました。

※掲載内容は、2011年12月取材時のものです。

編集後記
震災から2カ月ほど経った5月に、石巻市と宮古市を訪ねたことがあります。偶然ですが髙山先生の診られていた避難所にも足を運びましたが、被災者に対する、先生方や看護師さんなど医療者の懸命な対応に、目頭が熱くなりました。災害・震災被災者の症状の変化と、漢方薬を含めた治療の必要性については、髙山先生の話をうかがってまったくその通りだと思いましたし、今後の医療につなげていってほしいと願わずにはいられませんでした。このインタビューが、今この時も、少しでも体や心に不調を感じている方のお役に立つことができたら、幸いです。
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震災特別取材Vol.2 震災後の健康問題 〜心と体の変化・医療復興に向けての取り組み〜
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