
私たちの体は朝、目覚め、夜に眠るという睡眠リズムが備わっていますが、そうした睡眠のリズムが障害されて、眠れなかったり、眠りが浅くすぐに起きてしまったり、朝早く目覚めてしまうのが不眠です。ただ、5時間も眠ったら十分という人と、8時間眠らないと熟睡感がないという人がいるように、睡眠には個人差が大きく、何時間しか眠っていなければ不眠、何時間以上なら不眠ではないというラインが決められているわけではありません。睡眠時間にかかわらず、「眠れなくてつらい」。これが不眠なのです。
そして、こうした不眠症状がテスト前、旅行中などの一過性ではなく、継続的な場合を、不眠症と言います。
ちなみに専門的には、なかなか寝付けない状態を「入眠障害」、途中で起きてしまう状態を「途中覚醒」、朝早く起きてしまう状態を「早朝覚醒」と呼んでいます。
不眠症になる原因としては、騒音や振動、明るさ、気温、寝具の状態といった環境的な要因、精神的な要因、痛みなどの肉体的な要因、病気、薬や成分(カフェイン、アルコールなど)の影響、年齢(高齢になるほど眠りにくくなる)などが挙げられます。これらのなかでも最近は、ストレスによる精神的な要因が関わっているケースが多いようです。また心の病気が原因で不眠症になっているケースもよくみられます。不眠を伴う代表的な心の病気は、うつ病(入眠障害・早朝覚醒が多い)、神経症(入眠障害・中途覚醒が多い)です。
不眠症を治す方法として最初に行うことは、不眠が起こる原因を取り除き、眠りに就きやすい環境を整えることです。
それでも眠れない場合は、医師の指導のもと睡眠薬(睡眠導入薬という場合もあります)を使用することになりますが、その場合、不眠のタイプや重症度、原因などから適切な睡眠薬が決まります。以前は量を増やさないと眠れなくなる、薬が止められなくなるといった問題点がありましたが、最近の薬は自然な睡眠に近いはたらきを持つものが多く、これまでの問題点が解消されています。
睡眠薬のほかに、不安が強い場合は抗不安薬を用いることもあります。

漢方の古典『金匱要略(きんきようりゃく)』には、「疲労虚煩わして(わずらわして)眠るを得ず」という場合に、酸棗仁湯(さんそうにんとう)という漢方薬を用いると記載されています。これは一つの例で、後の表にも出てきますが、このほかにも不眠に用いる漢方薬はいくつかあります。
漢方医学の考え方には「気・血・水(き・けつ・すい)」というものがあります。そこで「気」の流れが滞って眠れない場合は気の流れをスムーズにする処方を、イライラして眠れない人には気分を落ち着かせる処方をというように、不眠が生じている背景を考慮した薬が処方されます。
このように、漢方薬は睡眠薬と違って、直接的に睡眠を誘発するようなはたらきは持っていません。むしろ不眠が起こる原因を解消することで、眠れるようにしていくことから、より自然なかたちで睡眠に導いてくれます。実際は実証、虚証などを考慮して用いられる漢方薬が決まります。
| 実証 | 大柴胡湯(だいさいことう)・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)・三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)など |
|---|---|
| 虚証 | 加味帰脾湯(かみきひとう)・加味逍遙散(かみしょうようさん)・帰脾湯(きひとう)・酸棗仁湯(さんそうにんとう)・抑肝散(よくかんさん)・柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)など |
※実証・虚証に関しては、漢方を知ろうをご覧ください。
比較的、女性には加味逍遙散を用いられることが多く、子どもの夜泣き、不眠には抑肝散が多用されるようです。
漢方薬の良い点は、不眠以外の症状も考慮するため、単に眠れるようにするだけでなく、不眠に付随する冷えや疲れ、めまいといった症状を治していくこともできます。さらに西洋薬と併用することで、睡眠薬の働きをサポートすることもありますし、睡眠薬の副作用による口の渇き、疲労などをとるために用いられることもあります。
漢方の診察では、独特の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、ご自身の症状とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも不眠症がどこに影響を及ぼしているかを探るために必要な診察です。もちろん漢方治療だけに頼らず、眠りやすい環境を整えるなど、不眠症対策を取ることも大切です。
*すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。
【監修医師 西田愼二】