
1998年に行われた厚生労働省の疫学調査によると、疲労感を自覚している人の割合は、約60%でした。しかも疲労を感じている人のうち、37%もの人が6ヵ月以上も疲れを感じている、「慢性疲労」であることが分かりました。それほど一般的である疲労ですが、そのメカニズムについてはよく分かっていない点が多いようです。
疲労とは、一般的には心身が消耗し回復のための休息を必要としている状態とされています。つまり、疲労には肉体的なものと精神的なものとがあり、通常はこの双方が複合した状態が疲労として感じられるのです。しかし、現代人の疲労の原因はストレスによる脳の疲れが主と考えられ、身体症状はその結果と考えられます。そして疲労が溜まると、単に「疲れた」という状態にとどまらず、仕事や勉強などの効率を低下させたり、ミスが生じやすくなったりします。
実はこうした症状は脳が発するSOS信号であることが分かってきています。疲労を感じる部分は体の部分、いわゆる筋肉や骨、内臓ではなく脳で、疲れが出てくると、脳は自らの活動水準を下げて、眠気やだるさ、集中力の低下、身体各部の違和感(頭痛や肩こりなど)といった、いわゆる「疲労感」を演出することにより、休息を督促し、体を守っているというのが最近の考え方です。
このような理由から、一般的には疲労という状態は病気ではないと考えられています(慢性疲労症候群という病的な状態をのぞく)。ですから、基本的に西洋医学では薬などによる治療は行いません。その代わりに日々自分自身が体調に注意をはらい、脳が発信する疲労感というSOS信号を素直に受け入れ、小休止や休息、睡眠、数日間の休養、栄養補給という疲労回復の方法を適宜、とることが必要となります。
ただしこうした疲労対策を行っていても、疲労が回復できない場合は、がんや甲状腺、肝臓、心臓などの病気の症状として現れている可能性もありますので、必要に応じて検査を受けることをおすすめします。

漢方では、体内には生命活動をコントロールする「気・血・水(き・けつ・すい)」があり、疲労はこれらの不調和が原因であると考えられています。とくに「気」は血と水を統合する生命エネルギーととらえられているため、疲労を解消するには気のアンバランスを整えたり、気を強めたりすることが大切となってきます。加えて、体に栄養を運ぶ「血」を補う必要があります。こうした治療を行なうことで、胃腸も丈夫になって食欲がわき、栄養分の吸収も速やかに。元気な体を取り戻すことができます。
疲労を改善する目的の漢方薬として代表的なものは、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で、だるい、気力が出ない、食欲がないといった状態に、とてもよく効きます。気力ばかりでなく、体力も回復させてくれる処方です。年齢的な衰え、夏ばてや病後の回復期にもよく用いられる方剤です。また、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)もよく使われます。これは脳のストレスをとるものです。
気虚に加えて、皮膚がかさついたり体重が減少したりという血虚の症状も伴うときは、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が効果を発揮します。人参養栄湯(にんじんようえいとう)を使うこともあります。胃下垂に伴って疲労感、冷え、無気力が現れているときは、四君子湯(しくんしとう)や六君子湯(りっくんしとう)などの胃腸症状に効く漢方薬が使われます。
漢方の診察では、独特の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、疲労とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも疲労の根本的な原因を探るために必要な診察です。また、体質改善を目的にする場合は長期にわたる服用が必要となりますので、忘れずに根気よく飲み続けることが、疲労改善の最大の鍵となります。もちろん漢方薬だけに頼らず、栄養がある食べものをとり、睡眠をたっぷりとり、規則正しい生活習慣を送ることも疲労回復に大切です。
*すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。
【監修医師 本間行彦】