
風邪とは単一の病気ではなく、主にウイルス感染による上気道(鼻腔や咽頭など)の炎症性の急性症状をまとめたものです。正式には「風邪症候群」といい、急性鼻咽頭炎(普通感冒)や急性気管支炎、インフルエンザなどさまざまな病名が属するグループ名と考えてよいでしょう。
風邪症状を引き起こすウイルスは200種類以上あると言われています。代表的なものに、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ライノウイルス、アデノウイルスなどがあります。湿度がなく乾燥している冬にかかりやすいというイメージがありますが、高温多湿の夏の時期にもウイルスは活動していて、感染を起こす場合もあります。
風邪はその原因となるウイルスの種類や感染した体の部分によって、さまざまな症状を現します。症状は局部症状と全身症状に大別することができますが、ひとつだけ症状が現われるというより、多くは複数の症状の組み合わせで起こってきます。
前述したとおり、風邪の原因となる病原体の多くはウイルスですが、今のところ抗菌薬(抗生物質)のように体内に入ったウイルスを殺す薬は抗インフルエンザ剤を例外として、ありません。そのため、根本から治すことは難しいとされています。
ただ、ウイルスを殺すような積極的な治療を行わなくても、ある一定期間が経てば治ってくる病気なので、まずは風邪の治療の基本処置(安静、保温、栄養、水分補給)を行い、その上でつらい症状の緩和を目的とした対症療法が行われることが一般的です。
病院では主として解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬が処方され、そのほか症状に合わせて、鎮咳薬(ちんがいやく)、去たん薬(きょたんやく)、血管収縮剤、ビタミン剤などが処方されます。また、風邪がこじれて細菌性の二次感染を生じた場合は、抗菌薬を使うこともあります。しかし、最近、これらの治療には問題が指摘され、漢方治療を主とする医師が増えてきました。
一方、一般薬局で販売されている感冒薬(風邪薬)は、解熱鎮痛成分、抗ヒスタミン成分、鎮咳成分、去たん成分などが総合的に配合されているため、風邪のさまざまな不快症状を緩和します。しかし、これにも同様の問題点が指摘されています。
なお、ウイルス感染によって起こるインフルエンザも風邪のひとつですが、全身症状がとくに強くときに重症化するなどの理由から、最近では一般的な風邪とは区別して扱われることが多くなっています。抗インフルエンザ剤がしばしば用いられます。

漢方では「風邪にかかったらまずは体を温めて治癒を早める」ことを目的として、治療を進めていきます。そこが「症状をとって治療をしていく」という西洋医学と違う点です。ただ、そのために必要となる漢方薬は、その人の病気に対する抵抗力の程度(虚証・実証)や、ひき始め、あるいは治りかけなど風邪の時期によって、変わってきます。また、風邪の場合は「熱証・寒証」という状態も重視していきます。ぞくぞくとした悪寒を感じる場合が「寒性の風邪」であり、悪寒を伴わない場合が「熱性の風邪」です。
したがって一般的に「風邪には葛根湯(かっこんとう)」と言われていますが、かならずしもそうではなく、その人の体力や症状、証の状態などによっては別の薬の方を用いたほうがよい場合もあります。
例えば比較的体力がある、若い人や子どもが風邪を引くと、熱がグンと上がって、寒気がして、体の節々が痛くなります。これは体が体温を上昇させてウイルスの増殖を防ぎ、治そうとするときの防衛反応の表れです。一方、体が虚弱な人や年配の人が風邪を引くと、微熱が続き、疲労感や胃腸障害などが現れてきます。風邪がなかなかなおらない「こじれた風邪」もあります。このように人によって風邪の症状の現れ方は多様です。
漢方では漢方独自の診断によってこうした体の状態を確認して、正常に引き戻すための漢方薬を用いて症状をとっていきます。
具体的には比較的体力のある実証の人の風邪のひき始めなら、からだを温めて、発汗を促す処方が用いられます。葛根湯は体を温める代表的な薬といえるでしょう。悪寒や発熱、 頭痛がある、首の後ろや背中がこっている、汗がほとんど出ないといったタイプには、非常に効果があるとされています。
麻黄湯(まおうとう)は、葛根湯よりもさらに強力に発汗を促す薬です。体力も十分あり、高熱(38.5度)、強い筋肉痛や激しい悪寒など、比較的重い風邪症状に用いられます。最近ではインフルエンザの初期にも有効ということが研究でも確かめられています。
桂枝湯(けいしとう)は汗がジワジワ出るような軽症の風邪に用います。
それに対し、体力が比較的ない年配の人、女性などに見られやすい、寒けが強い、顔色が青白い、咳、のどのチクチクする痛みがあるなどの風邪には、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)が 用いられます。 このほか、咳がひどい場合は、のどを潤して咳を止める麦門冬湯(ばくもんどうとう)、痰の多いせきで不眠が続く人には竹じょ温胆湯(ちくじょうんたんとう)などがよく使われます。またふだんからのどが弱く、吐きけや胃のつかえ・痛みなどが起こりやすい場合は柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)が用いられます。下痢などの胃腸障害が続くときは真武湯(しんぶとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)なども使われます。
| 急性期 | 実証 ↓ 虚証 |
麻黄湯、葛根湯など 桂枝湯、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)など 麻黄附子細辛湯、真武湯、香蘇散(こうそさん)など |
|---|---|---|
| 慢性期 | 実証 ↓ 虚証 |
麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、麦門冬湯など 柴胡桂枝湯、竹茹温胆湯など 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など |
| 胃腸障害 | 真武湯、半夏瀉心湯、桂枝加芍薬湯など | |
風邪というのは、かかっている時期で症状がどんどん変わっていきます。したがって、上記のような薬は、風邪を引いている間ずっと使い続けるというより、症状に応じて次々と変えていくという方法がとられます。
漢方の診察では、独特の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、風邪とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも風邪の根本的な原因を探るために必要な診察です。
*すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。
【監修医師 本間行彦】