
通常、食べものは、その内容によっても違いますが、1〜5時間ほど胃の中にとどまって消化された後、小腸へ送られます。ところが胃のはたらきが弱くなっていったり、胃の消化機能をオーバーするような食べもの、飲みものが入っていたりすると、消化が遅くなり、胃もたれと呼ばれる状態になります。なお、「もたれる」というのは、ムカムカする、胃が重い、お腹がふくれたような感じです。
胃の消化機能を低下させる原因としては、暴飲暴食による消化不良、香辛料やアルコールなど刺激物の摂取、ストレス、タバコなどが挙げられますが、このほかに睡眠不足や生活の乱れなどの不摂生によって自律神経の機能が乱れると、やはり胃の動きが悪くなり、胃もたれを起こすことがあります。
ただ、こうした一次的な胃もたれであれば、その原因を除去することで回復しますが、いつまでも症状が続いたり、お腹が張る(腹部膨満感)、食欲不振がある、胃が痛む、痛むような胸やけなどがあるといった場合、胃がんやポリープ、潰瘍など胃や食道に病変がある(器質性)可能性もあるので、一度、検査を受けたほうがよいでしょう。
最近では、検査で胃の粘膜にただれや出血などの器質的な病変がないのにもかかわらず、さまざまな胃の症状を訴える状態が12週以上続く場合を、機能性胃腸症「NUD(non-ulcer dyspepsvia)」と呼ぶようになりました。これまで慢性胃炎、胃下垂、神経性胃炎などと呼ばれていたのを一つの状態にまとめたものと考えてよいでしょう。胃もたれはNUDの特徴的な症状のひとつで、そのほかに食欲不振、腹部膨満感、吐き気、胃痛、胸やけなどが挙げられます。
またNUDは症状によって3タイプに分けられ、胃もたれは「運動不全型NUD」に含まれます。日本ではこのタイプが多いようです。原因はよく分かっていませんが、胃の機能低下、胃酸分泌の異常、ストレスなどによる胃腸障害、薬剤の影響、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染などが関係していると言われています。
| 運動不全型 | 胃もたれや胸やけ、腹部膨満感を伴う |
|---|---|
| 潰瘍型 | 胃痛など、上腹部の痛みが主訴 |
| 非特異型 | そのほかの症状 |
胃もたれの治療についてですが、病気が原因であるときはそちらの治療を優先します。生活習慣の乱れによって生じる場合は、当然、タバコやアルコールを控えたり、食事の内容を工夫したり、たっぷりと睡眠をとったりするなどして、生活の改善を行っていきます。
さらに症状が治まらないときは、短期的には胃腸薬を用いることもあります。胃腸薬の種類には、胃の機能を活発にする「健胃薬」、胃や腸での消化を助ける「消化薬」、胃酸の分泌を抑える「制酸薬」、胃の粘膜を保護する「胃粘膜保護薬」などがあります。桂皮、生姜など漢方薬に配合されている生薬も健胃薬の成分として、市販の胃腸薬に含まれていることがあります。 胃腸薬はその種類によって飲む時間帯が違います。具体的には健胃薬は食事の30分前くらい前まで、消化薬は食後30分くらいまで、制酸薬、胃粘膜保護薬は食後2時間以降の空腹時や寝る前となります。処方してもらうとき、購入するときには、薬剤師や医師に服用の注意点を聞き、正しく服用することが大切です。
一方、NUDの治療は、症状を抑える対症療法と生活習慣の改善の2本立て行われます。対象療法については、運動不全型では、胃酸の分泌を調整するH2ブロッカーなどの胃酸分泌抑制薬を服用し、不安などが強い潰瘍型では、抗うつ薬を使用することもあります。

漢方で胃もたれは、「気・血・水(き・けつ・すい)」の「気」が不足している「気虚」の状態、あるいは「水」のバランスが悪くなっている「水毒」の状態と考えられています。そこで胃への血行を促して胃腸を温めることで胃の緊張を解いたり、胃に溜まった水を排出させたりする六君子湯(りっくんしとう)が、第一選択薬として用いられます。そのほか胃の血行をよくして消化機能を改善する人参湯(にんじんとう)、同じく胃の血行を良くして、自律神経のバランスを抑えたり、胃酸の分泌を調整したりする安中散(あんちゅうさん)が用いられることもあります。
最近ではNUDに対して六君子湯が優れた効果を示すことが、二重盲検試験という方法で確かめられたことから、六君子湯を使うケースが増えているようです。
| 六君子湯 | 第一選択の漢方薬 |
|---|---|
| 人参湯 | 体力がなく、手足の冷えや下痢を伴う場合 |
| 安中散 | 胸のつかえや胸やけを伴う場合 |
また、漢方薬はいくつもの生薬によってできていますが、実は生薬の中には胃を健康にする健胃作用をもつ生薬がたくさんあります。漢方薬を飲んでも胃腸に負担がかかりにくい理由は、こうしした健胃作用の生薬が含まれているからです。
漢方では胃腸の状態をとても重視します。というのも、不調に悩んでいる人の多くは胃腸が弱かったり、胃腸に問題を抱えていたりすることが多いためです。たとえばアレルギー症状では、基本的には症状に対する漢方薬を用いますが、そのほかに胃腸を丈夫にする漢方薬を併用すると、治りが早くなったり、症状に改善が見られたりすることがあります。
漢方の診察では、独特の「四診」と呼ばれる方法がとられます。月経の状態、日常生活のことなど、胃もたれとはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、おなかや舌、脈を診たりすることがありますが、いずれも薬を決めるための手がかりになりますので、重要です。
*すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。
【監修医師 新井信】