

大橋マキ:今日は漢方外来のことをいろいろ伺いたくて、やってまいりました。よろしくお願いします!
新井先生:こちらこそ、よろしくお願いします。
大橋マキ:はじめに基本的なことから教えてください。私自身、とても漢方薬に興味があるんですが、漢方外来ではどんなことをやっていて、ここで診てもらうにはどうしたらいいかよくわからないんです。東海大学病院の漢方外来を受診する人は、どんなきっかけで来られるのですか?
新井先生:多いのはこの病院のほかの科、たとえば内科とか耳鼻咽喉科、皮膚科などからの紹介ですね。そのほかに県内のほかの病院やクリニックにいる医師からの紹介もあります。この病院内に置いてあるパンフレットや病院のホームページを見ていらっしゃる方もいます。そうそう、家族や知人から聞いていらっしゃる方も多いですね。
大橋マキ:口コミも多いんですね。確かに実際に漢方薬で元気になった人の話って、とても信ぴょう性があります。私も調子の悪くてつらそうな友人には「漢方薬、いいよ!」って、おすすめしているんですよ(笑)。受診者の年齢や性別ではどんな傾向がありますか?
新井先生:圧倒的に多いのは女性と高齢者。若い男性は少ないですね。そう言う意味では女性の方が健康意識は高いようです。来院理由はおおよそ3つに分かれます。まずは「西洋医学の網にもれた人」。つまり検査では異常がないけれど症状があるという人、あるいは医師から「たいしたことない」とか、「問題ありません」といって治療してもらえなかった人です。次は「西洋医学で病気がわかっても治せない人」、たとえば子宮内膜症のように西洋医学でも確実な治療法がない病気にかかっている人です。最後は「西洋医学に不安を持っている人」、いわゆる西洋医学ギライの人です。症状があってつらくても、かたくなに検査や西洋医学的な治療をこばむ。でも、そういう方ってとても危ないんですよ。
大橋マキ:どうしてですか?
新井先生:重大な病気を見過ごしてしまう恐れがあるからです。この前、漢方の治療ならいいと受診された患者さんがいらっしゃいましたけど、腹診をしてみると、どうも“腫れもの”がある。そこであわててCT検査をしたら、“がん”でした。ここで見つかったからよかったものの、やっぱり西洋医学が嫌いだから検査を受けない、受診しないというのも、考えものです。

大橋マキ:漢方外来ではどんな診察をして、治療をすすめていくのでしょうか。
新井先生:診察の手順をご説明する前に、大切なことをひとつお話しします。漢方外来だからといって、すべて漢方で診断や治療を行うわけではありません。私たち漢方外来を担当する医師は、西洋医学と漢方医学の両方を学んでいます。診察や検査もほかの科で済んでいれば別ですが、初診であればここで血液検査は行いますし、漢方の治療を行っているときに西洋医学の検査や治療が必要になった場合は、ほかの科を紹介します。
大橋マキ:他の科から紹介されたり、紹介したり。まさに連携プレーですね。
新井先生:そうですね。そういう意味では総合病院の漢方外来は、病院内に他科がありますから、連携がやりやすいといえるでしょう。さて、漢方の診察の流れですが、まず予約をして来院されたら、最初に問診票を書いていただきます。
大橋マキ:私も以前、漢方薬を処方してもらうときに問診表を書きました。生活習慣や家族のことなども書く項目があって、おもしろいなって思った記憶があります。
新井先生:漢方では一見、関係ないように思えることでも、病態を知る手がかりになりますので、問診を重視しています。
大橋マキ:できるだけ細かく話すことが大切なんですね。
新井先生:手がかりになりますからね。ところが意外と患者さんの多くは西洋医学的な医療が身に付いていて、問診をしても「病気に関係ないことだから、話してもしかたない」と思って口にしていただけないことがあります。でも、実はその内容がとても重要な診察ポイントになっていた、そんなケースもあるんですよ。
大橋マキ:西洋医学的な治療が身に付いているって、うーん、難しい・・・。あまりイメージがつかめないので、もう少しわかりやすく教えていただけますか。
新井先生:たとえば、大橋さんは以前、不調があったとおっしゃっていましたが、そのときはどの科を受診されましたか?
大橋マキ:耳の調子が悪かったので、まずは耳鼻科を・・・。
新井先生:そう。ふつうは何の疑いもなく耳が悪ければ耳鼻科に行きますよね。ただ、それがまさに“西洋医学的な考え”なんですよ。漢方では、耳の調子を改善させるときも全身の状態を診ます。なぜなら耳の症状があるからといって、耳だけに原因があるとは限らないからです。ですから、問診票には不調のある部分のことだけでなく、全身の状態、生活、家族のことも記入していただく項目がありますし、私たちはその問診表を見て、もっと詳しいことが知りたい内容については「こんな症状がありませんか」とあらためて聞いて、問診内容を深めていきます。
大橋マキ:なるほど!
新井先生:診療の流れの続きですが、問診の次に望診、聞診、切診を行います。これらを合わせて“四診”と言います。望診はその人の顔や舌を診る診察、聞診は声の大きさやトーンを診る診察、切診は脈やおなかを診る診察です。
大橋マキ:私もおなかを診てもらいました。それで不思議に思ったんですが、おなかからどんなことがわかるんですか?
新井先生:おなかの抵抗や腹部の動悸から「虚」の体質か、「実」の体質かがわかります。おなかには大動脈があって、ドックンドックンと脈打ちながら血液が流れています。腹筋がなくて弱い、つまり虚証の人は、それを外側から感じ取ることができます。それに対して実証の人は、腹筋が発達しているのでなかなか感じることができません。西洋医学でもおなかを診ますが、それは主に臓器の状態、たとえば肝臓が腫れているかとか、腫瘤(コブのような腫れ)があるかを診るんですね。
大橋マキ:同じようにおなかを診るのに、その目的が違うなんて、おもしろいですね。
新井先生:四診が終わったら、その結果から処方する漢方薬を決めていきます。もちろん、西洋医学的な治療がいい場合、あるいは併用した方がいい場合は、違う科を紹介します。

大橋マキ:私の祖母が経験した話ですが、ある病院での診察で症状を聞かれたとき、祖母は「頭が痛い」「めまいがする」「冷える」って、いくつかの症状を訴えたらしいんですね。そうしたら医師から、「それは“うつ”でしょう。気の持ちようだから、散歩に出かけて気分転換をはかりましょう」って言われたんです。
新井先生:そうでしたか。ただ、そういうことを話すのは、その医師だけではないと思います。ほかの医師も同じことを言うかもしれません。
大橋マキ:え!? それはなぜですか?
新井先生:それはおばあさんの訴えを治してあげられるような手段を、今の西洋医学では持っていないからなんです。あったとしても抗うつ薬ぐらいでしょう。治療法がないから「気分転換が必要」、「趣味を持って」と言わざるをえないんです。
大橋マキ:新井先生だったら、祖母の訴えを受け止めて、治療をしてくれますか?
新井先生:もちろん。薬があるから大丈夫ですよ。一度、診察させていただければ、どうして症状が起こるか原因がわかるでしょうし、その不調をよくしてあげることもできると思います。
大橋マキ:いろいろと訴えがあるみたいなんですけれど・・・。
新井先生:
そういう方こそ漢方が必要なんですよ。漢方は全身を診る医療ですから、おばあさんのようにめまいや頭痛、冷えという、まったく体の違う部分で起きている症状に対応できる。だから漢方外来は、循環器科、産婦人科、呼吸器科、精神科というように臓器別に区別されていません。たとえるなら内科や産婦人科などの科を縦に並べた場合、漢方外来はそれらを串に刺すように横断している科といえるでしょう。最近、多くの病院で“総合内科”という診療科ができつつありますが、漢方外来はむしろそのようなところだと思います。
大橋マキ:受診の方法や流れはおよそわかりましたけれど、具体的にどんな悩みや症状があったときに、漢方外来を受診したらいいのでしょう。
新井先生:基本的には「器質的」、つまり病変が何かある病気は、西洋医学のほうが治しやすく、「機能的」、つまり病変がないのに症状がある病気、はたらきが悪くなって症状が起こる場合は、漢方のほうが適しています。
大橋マキ:私の場合、検査をしても原因が分からなかった。機能的な病気だったんですね。
新井先生:そうですね。
大橋マキ:加齢現象、たとえば忘れっぽいとか、腰痛なども漢方で治療できるのでしょうか。
新井先生:本人にとって不愉快な症状だったり、日常生活に支障をきたすような症状だったりした場合は、治療の対象になります。「忘れっぽいのは年のせい」って周囲は思っていても、本人が困っているのであれば、治療したほうがいいでしょう。
大橋マキ:忘れっぽいというのは、漢方ではどういう状態を表しているんでしょうか。
新井先生:「腎虚(じんきょ)」ですね。腎とは臓器の腎臓ではなく、五臓六腑のひとつのはたらきを示していて、生殖能力や生命力などをつかさどるところ。腎が低下した「腎虚」の人は、忘れっぽくなったり、体力が低下したりするわけですが、そういう人に対して、腎を元気にさせる八味地黄丸(はちみじおうがん)などを処方します。
大橋マキ:加齢と言うと、最近、「アンチエイジング」という言葉をよく耳にしますが、漢方の場合は健康的にエイジングするためのお手伝いをしている感じがします。
新井先生:年をとってもずっと元気でいて、ある日突然、寿命がくる。「ピンピンコロリ」がいいですよね。漢方はこの「ピンピン」のほうのお手伝いをしているわけです。
大橋マキ:うつやイライラも治療対象になるんですか。
新井先生:イライラして真っ赤な顔をしている方の不眠には、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を使います。おとなしく、おだやかになることから、家庭が円満になったりするみたいです。「夫とケンカしなくなった」とか話してくれます。以前、夜泣きをするお子さんとそれが原因でイライラするお母さんのお二人に抑肝散(よくかんさん)という薬を飲んでもらったら、二人とも症状がよくなったということがありました。このようにお母さんと子どもが同じ漢方薬を飲むことを、「母子同服」と言うんですよ。
このエピソード「抑肝散でお母さんもお子さんもニコニコ」はこちら
大橋マキ:母子が一緒の薬を飲むなんて、とてもステキですね。それに漢方薬で気持ちが落ち着くって、何となく分かります。私もしばらく漢方薬を飲んでいましたが、安心するんですよね、飲むと。
新井先生:そうおっしゃる患者さんも多いですね。

大橋マキ:女性の病気はどうですか?
新井先生:月経不順、月経痛、不妊症などは、漢方が得意とするところですね。こうした病気は主に「血(けつ)」の異常によって起こるとされているので、「駆お血剤」というタイプの漢方薬を使って治していきます。子宮内膜症などを持っている人でも、だいぶ月経痛などの症状がやわらぎますよ。鎮痛剤がいらなくなったという患者さんも少なくありません。
鎮痛剤がいらなくなった子宮内膜症のC子さんのエピソードはこちら
大橋マキ:私の周りにも生理痛に悩んでいる女性が多いので、すすめてみようかな。
新井先生:これも最近、「性差医療」なんて騒がれていますが、漢方では2000年以上も前から女性のための治療法がちゃんとあって、書物に残っています。
大橋マキ:今、注目されていることが、古代から考えられていたわけですね。すごいなぁ。言葉に表せない調子の悪さや、これくらいで病院に行ったら笑われちゃうんじゃないかといった症状があって、でも、やっぱり仕事も家事もつらくて、これ以上がんばれないという人に、漢方薬はどうでしょうか。
新井先生:そういう方こそ、「西洋医学の網にもれた人」であり、漢方治療が向いているんですよ。今の世の中、そういう漠然とした悩みや症状を抱えている方ってとても多いと思います。そういう方が健康を取り戻せば、社会はもっと活性化して、元気になるんでしょうね。そう言う意味でも、漢方外来や漢方薬を大いに利用して、ご自身のポテンシャルを上げていただきたいですね。
※女性の健康を応援するウーマンビューでも「月経不順」について解説しています。大橋マキ:基本的なお話に戻りますが、診察時間はどれくらいとるのでしょうか。
新井先生:ここでは初診に最低でも15分は時間をとっています。脈やおなかをさわったり、いろんなことを尋ねたりするので、この時間では足りないくらいです。
大橋マキ:一般的な診察時間が3分ぐらいと聞いていますから、それに比べるとかなり長いですね。それから、治療期間の目安はありますか?
新井先生:症状の程度や病気の期間にもよります。カゼはすぐに治らないと困りますよね。一方、胃の不調や便秘などの消化器症状は、2週間ぐらいが治療の目処(めど)になります。治療の目処というのは治療期間ではなく、薬の効果を判定する期間です。加齢現象の場合はほうっておいたらどんどん悪くなるわけですから、2、3ヶ月ぐらいの猶予は必要です。もちろん、どれくらい続けるかというのは患者さん次第です。メインの症状は残っているけれど、おまけの症状がなくなったから続けていきたいとおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。
大橋マキ:おまけの症状、ですか?
新井先生:そう。たとえば加齢現象でいうと、忘れっぽくなるだけでなく、 耳鳴りや足腰の冷えや痛みとか、いくつも症状を抱えているわけ です。そこで、足腰が冷えて痛むという訴えに対して漢方治療をしていると、そのときに忘れっぽさや耳鳴りといったおまけの症状までいっしょに軽くなって、心もからだも元気になるということがよくありますね。
大橋マキ:そのほかにも、漢方薬を飲むと安心できるから、続けていきたいという人もいそうですね。
新井先生:いらっしゃいますね。もちろんそういう方は続けてもらいます。止めどきについては担当の医師と話して決めていく必要があります、3ヶ月ぐらい良い状態が続いてからの方がいいと思います。
大橋マキ:今回、新井先生にいろいろと伺って、漢方の考え方や漢方外来のことがだいぶわかりました。健康をサポートする強力な味方ができたみたいで、とても心強くなりました。
新井先生:ちょっとした不調でも、本人にとってはとてもつらいものです。症状をかかえて悩んでいらっしゃる方は、ぜひ、受診していただきたいですね。まずはおばあさんの受診をお待ちしていますね。
大橋マキ:よろしくお願いします!
総合病院にある漢方外来。ちょっとほかの診療科と異なる特殊なところなのかなと思っていましたが、そんな事はありませんでした。一般外来にスペースがありますし、新井先生が「ほかの科とのコンビネーションが大事」とおっしゃっているように、お互いの得意分野、領域の棲み分けがきちんとできていても、必要なときは別の科に紹介するという連携プレーがばっちりできていました。これは受診するわたしたちにとって、とてもうれしいことではないでしょうか。
まずは「うつは気の持ちよう」と言われて、しばらく落ち込んでいた祖母に、ぜひ、こちらの漢方外来を紹介したいと思います。