

大橋マキ:今日はよろしくお願いします! 不妊症というと、最近、妊娠や出産にまつわるニュースがいろいろと話題に上っていて、気になるところなんですけど・・・。やっぱり「子どもができない=不妊症」なんですか?
安井先生:医学的な定義では「普通に夫婦生活を営んでいて、2年間赤ちゃんができなかった」場合、不妊症とされます。ただ、最近では結婚前に心配になられてチェックするカップルもいるようですから、私自身は定義にとらわれる必要はなく、お二人の考え方次第と思っています。子どもを作ろうと思うか、思わないか、その違いですね。
大橋マキ:なるほど。確かに私のまわりにも、「子どもはまだ」って考えている夫婦がいますけど、そういう場合はたとえ結婚5年目だとしても、不妊症じゃないということですね。
安井先生:そうそう。そもそも「不妊症」という概念自体、新しいものなのですよ。医学が進んでいなかった昔は、赤ちゃんは天からの授かりものであり、「そのときが来たらできる」ものと考えていましたから、病気として捉えていなかったのです。
大橋マキ:概念は何となく分かりましたけど、実際、不妊症で悩んでいるご夫婦ってどれくらいいるのでしょうか。
安井先生:軽いものまで含めると、10組に1組と言われています。
大橋マキ:意外と多い(驚)! もちろん不妊と言っても、いろいろと理由があるんですよね。
安井先生:大きく女性側の問題である卵管障害や排卵障害と、男性側の問題とに分かれます。今から20年ぐらい前は、卵管障害が3分の1、排卵障害が3分の1、男性側の問題が3分の1と言われてきましたが、今は男性側の問題が増えてきて、女性側の問題と半々ぐらいになってきているようです。
大橋マキ:女性側の問題、卵管障害と排卵障害というのは、どういうものですか?
安井先生:卵管障害とは卵管(子宮から卵巣にむかう道)が詰まったり細くなったりして、卵子が通れなくなる状態、排卵障害は何らかの理由で排卵が起きにくくなっている状態を言います。最近は、極端なやせや肥満が排卵障害、感染症などが卵管障害の原因になっているケースが多いようです。
大橋マキ:男性側の問題とは?
安井先生:多くの場合、精子の運動率が低下していたり、精子の数自体が少なかったりすることが挙げられます。
大橋マキ:不妊症はどうやって調べるのですか?
安井先生:不妊症の検査には、女性が行うものと男性が行うものがあります。女性の場合はまず排卵がきちんとあるか、卵管が詰まっていないかを検査します。排卵障害はご存じの通り基礎体温表からも分かりますし、血液検査や超音波で調べることもあります。卵管障害は、卵管に水や造影剤を通して状態を確認します。
大橋マキ:何回も病院に通わないといけないというイメージがありますけど・・・。
安井先生:確かに排卵の周期に合わせて調べるものもあるので、大橋さんがおっしゃるとおり1回では終わりません。私たちの病院では基本的に3回来てもらっています。
大橋マキ:では、男性はどのような検査を?
安井先生:病院で精子を採取して、その数や運動率を確認します。基本的にこちらは1回の検査で大丈夫です。
大橋マキ:不妊は女性の問題って思っている男性が今もいるみたいですけど、なかなか病院に来たがらない男性もいるとか?
安井先生:そうはいっても不妊治療は夫婦の共同作業ですからね。どちらに原因があるか分からないわけですから、1度は必ず男性にも来てもらいます。ただ、大学病院を受診されるようなご夫婦は、すでにいろいろな施設で不妊治療をして、それでも赤ちゃんを授からない難治性のケースが多いんですね。そういうこともあって、男性側もかなり真剣で、まじめに、きちんと受診してくれますよ。
大橋マキ:以前、このコーナーで漢方薬は不妊症にもよいという話を聞きました。安井先生の病院でも、漢方薬を不妊治療に使っていると聞いていますが。
安井先生:はい、使っています。
大橋マキ:どんな場合に、どんなタイミングで使うのでしょうか?
安井先生:まずは一般的な検査を受けてもらいます。その結果、原因がある程度特定されて、西洋医学的な治療をした方がいいということになった場合は、当然、そちらの治療を勧めます。そうした治療をしていてもなかなか妊娠できないとき、原因が分からないときに、漢方治療を併用してみたらどうかと、提案します。
大橋マキ:とすると、漢方治療は西洋医学の治療をサポートするような感じですか?
安井先生:そうそう。西洋医学的な不妊治療を後押しする治療と考えていいと思います。例えばストレスがあると妊娠しにくいと言われていますが、ストレスというのはなかなか西洋薬で取ることができない。そこで漢方薬の登場です。漢方薬にはストレスを抑えるものがありますから、漢方薬を西洋医学的治療に追加することで、赤ちゃんができやすい体に変えていくことができるというわけです。もちろん、ストレス以外の原因でも、漢方薬が不妊治療に役立つ場合が数多くあります。
大橋マキ:いよいよ、核心部分ですね。具体的に安井先生はどんな漢方薬を使っていらっしゃるのでしょうか。
安井先生:私たちは、ストレス、冷え、胃腸虚弱があると赤ちゃんができにくいと考えています。したがってストレスがある人には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)や加味逍遙散(かみしょうようさん)などを、冷えがある人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、温経湯(うんけいとう)などを、胃腸虚弱のある人には六君子湯(りっくんしとう)や人参湯(にんじんとう)などを使います。
| ストレス | 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)・加味逍遙散(かみしょうようさん) |
|---|---|
| 冷え | 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)・温経湯(うんけいとう) |
| 胃腸虚弱 | 六君子湯(りっくんしとう)・人参湯(にんじんとう) |
大橋マキ:不妊症の漢方薬ってそんなにたくさんあるんですか!
安井先生:その人の抱える根本的な問題をとっていく治療ですから、いろいろな処方が考えられるわけです。もちろん診察時にお腹を触ったり、手足の状態を見たり、問診をしたりと、漢方医学的な視点からその人の体質や症状などを確認したうえで、漢方薬を処方します。
大橋マキ:やっぱり漢方医学的な見方は必要なのですね。
安井先生:そうですね。例えば冷え。冷えというのは血液の流れが非常に悪くなることで起こります。血流が悪くなればホルモンの流れも悪くなりますが、血液検査ではホルモンの量は分かるけれど、流れ具合までは分かりません。しかし、漢方医学にのっとった診察をすると、血液の流れ具合を捉えることができます。そういう意味からも、漢方の見方はとっても大事です。
大橋マキ:ちなみに、男性の不妊症にも漢方薬はいいのですか?
安井先生:男性の場合、今のところ西洋医学的な治療法がないのです。だから漢方薬に期待するところが大きいと言えます。今、注目されているのが補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。この漢方薬は精子の運動率を上げたり、数を増やしたりするために飲んでもらいます。
大橋マキ:それで、効果はどうですか?
安井先生:実際に男性不妊症を克服した方を何人も見ています。ある男性に処方したときは運動率が上がって、1年ぐらい飲み続けたら、ご夫婦に赤ちゃんが授かりました。
大橋マキ:良かった! 不妊に悩んでいる男性には朗報でしょうね。
安井先生:ただ、男性不妊については精子の数や運動率の低下がなぜ起こるのか、その原因がよく分かっておらず、不妊治療についても、まだまだ女性に対する治療ほど進んでいないというのが、現状です。
大橋マキ:女性の場合で実際に妊娠にいたった方の例を教えていただけますか?
安井先生:そうですね、こんな方たちがいらっしゃいました--。
2年ぐらい前から不妊治療を行っていたA子さん(30代半ば)。
治療効果が見られず、なかなか妊娠にいたらないことから、担当医の紹介で徳島大学へ。問診でA子さんは「暑い夏でも靴下や腹巻きを欠かせないほどの冷え症で、胃腸も弱いんです・・・」と話し、触診をすると、手足だけでなくお腹も冷えていました。検査では排卵も順調でないことが分かりました。
そんなA子さんに六君子湯を処方したところ、胃腸が少しずつ丈夫になり、以前よりも食事がとれるように。しっかりと食べられるようになったことで、血行も良くなり、冷えも治っていきました。体調が良くなると排卵も順調になり、漢方治療を始めて10ヵ月ほどで妊娠にいたりました。
30代後半のB子さんが不妊治療を始めたのは30代半ば。
これまでいろいろな病院でさまざまな治療を行い、それでも妊娠しない状況に、B子さんは焦っているようでした。最初にB子さんを診たときは落ち着きがなく、イライラした様子。「方法は何でもいいから、とにかく早く妊娠させてほしい」。そのように懇願していました。
ところが、これだけ長い間、不妊治療を行っているにもかかわらず、こちらで検査をしても排卵や卵管に異常がありません。夫側にも問題がないのです。そのときに思い当たったのが、「ストレス」でした。そこでB子さんにストレスによる症状を抑える加味逍遙散を処方しました。すると少しずつイライラがなくなり、診察のときもにこやかに話すように。
そして半年後にB子さんは妊娠。男の子を出産したそうです。
大橋マキ:こうして漢方薬が不妊治療をサポートしてくれるってことを知っている人って、まだまだ少ないと思いますが、先生が「漢方薬を使いましょう」とおっしゃると、患者さんの反応は?
安井先生:そうですね。ただ、私が漢方薬を使う場合は、いろいろと治療を試してみてもなかなか赤ちゃんが授からないケースが多いからでしょうか、皆さん、抵抗なく飲んでくれますよ。疑問を持っている方には、漢方薬の効果も科学的に解明されつつあることを説明します。そうすると納得してくれますね。
大橋マキ:実際、A子さんやB子さんのように、赤ちゃんが授かるケースがあるわけですからね。
安井先生:そうそう。妊娠した後、「漢方薬ってこんなに効くんだ」とびっくりされる方がけっこう多いですよ。
大橋マキ:ところで安井先生は「漢方薬も科学的に解明されつつある」とおっしゃっていましたけど、具体的に不妊の場合、どんなふうに効くのでしょう。
安井先生:よくぞ聞いてくれました! 実は私たちのところ(徳島大学)では、不妊によいとされる漢方薬は女性の体のどこに働きかけるかという点について、今、研究中なのです。例えば「温経湯」という漢方薬は視床下部や下垂体(排卵の引き金になる黄体ホルモンの分泌を促す脳の一部)に作用していることが実験で分かってきました。また、「当帰芍薬散」は脳と卵巣の両方に、「桂枝茯苓丸」はどちらかというと卵巣に作用することも分かりました。
大橋マキ:漢方薬って昔の人の経験から生まれたものですけど、今はそんなことまで分かるようになってきているんですね。びっくりしました。
安井先生:西洋医学と漢方医学の両方を使うにあたっては、科学的な視点を持つことも必要だと、私たちは考えています。
大橋マキ:漢方薬のことについて、すごく良いお話を聞いてきたわけですが、注意点とか気をつけなければならないこともありますよね。
安井先生:漢方薬も薬ですからね。何より気をつけないといけないのは、副作用の問題です。
大橋マキ:副作用?
安井先生:そう。不妊治療で漢方薬を飲んでいたら、気付かないうちに妊娠していたと言うケースがあります。そういうときが問題なのです。
大橋マキ:どんな漢方薬もダメですか?
安井先生:大丈夫なのは「当帰芍薬散」くらいですね。これは妊娠中に起こる不調にもよいとされる薬です。そのほかの不妊治療で使われる漢方薬は、気をつけないといけません。なぜならほとんどに “甘草(かんぞう)”という生薬が入っているからです。甘草は、飲み続けると血圧が上がったり、むくみが出たり、体がだるくなったりしやすいのです。
大橋マキ:医師の指導のもとで飲んでいるのであれば、大丈夫ですよね。
安井先生:ええ。それなら大丈夫です。
大橋マキ:私もそうですけれど、働く女性がとても増えています。仕事に夢中になっていて、気が付いたら30、40代という女性も多いです。一般的に年齢が高くなると赤ちゃんができにくくなると言われていますけど、そういう場合の不妊に漢方治療はどうでしょう。
安井先生:確かに大橋さんのおっしゃるとおり、年齢とともに卵子の質が落ちてきますので、受精しにくくなったり、受精しても分割しにくかったりします。だから赤ちゃんができにくいのですね。そういうところに漢方薬を使って、卵子の質を上げたり、受精しやすい状態にしてあげることができたらいいのですが・・・。
大橋マキ:難しいですか?
安井先生:今は何とも言えません。ただ、お話してきたように漢方薬はストレスに対する抵抗力を強めたり、冷えを治したりと、根本的な問題を改善させ、体の機能が弱くなっている人の状態を良くしていくはたらきがあるわけですから、そういう意味では漢方薬は女性の強い味方だと思いますよ。
大橋マキ:最後に、不妊治療全体を通して、先生からアドバイスをお願いします。
安井先生:私たちのところにいらっしゃるご夫婦のなかには、10年以上治療を続けている方々もおられます。いろいろな方法を試みても妊娠できず、精神的にも肉体的にも疲れ果ててしまったご夫婦もいらっしゃいました。「お子さんが欲しい」という気持ちは痛いほど分かりますが、かえってそのストレスが不妊につながることもあります。だから、途中で頭をパッと切り換えることが大切。ときには治療のことを忘れて、お二人で旅に出るのもいいですね。実際、ご夫婦で旅行を楽しんで、帰ってきたら妊娠していたというケースもあるんですよ。
大橋マキ:ということは、結果を急がない、ちょっとでも不安や疑問を感じたら担当の医師に相談する、そういったことが大切なんですね。今日は本当に勉強になりました。安井先生、どうもありがとうございました。
※不妊症については「悩み別漢方」でも詳しく解説しております。ぜひご覧ください。
安井先生のお話で一番印象に残ったのは「不妊治療は夫婦の共同作業」ということです。
私自身、少し勘違いしていたかもしれません。
早速、不妊に悩んでいる友達にも、夫婦一緒にお医者さんのところに行ってみては! と勧めてみようと思います。
また、今回で3回目の「漢方徹底取材」となりますが、取材のたびに様々な医療の現場で漢方薬が頼もしい存在になっていると実感させられます。
それに、漢方薬を処方されている先生はお話しやすい方が多いように思います。
今から不妊治療を始めようと考えていたり、治療中でもなかなか赤ちゃんができないでいるカップルの方々は、一度、漢方薬も処方してくれるお医者さんのところを訪ねてみてはどうでしょうか。