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特別取材

「皮膚は内臓の鏡」と言われていること、ご存じですか? これはカラダと皮膚は表と裏の関係であり、皮膚の症状はカラダのSOS信号として現われることが少なくないということを示した言葉。実際のところ、肌のトラブルは外用薬などでカラダの外からアプローチするだけでなく、カラダの内側からのケアや治療を必要とするケースも少なくありません。そんなカラダと皮膚のつながり、そして漢方の役割について、皮膚科、美容外科、形成外科を専門とされる三浦麻由佳先生にうかがいました。

シミ、シワ、ニキビ……肌トラブルはなぜ起こる?

--こちらには、どのような悩みをお持ちの患者さんが訪ねて来られますか?

三浦先生:
帯状疱疹など、一般的な皮膚科の治療をされる方が3割、シミやシワなどの美容皮膚科の治療をされる方が7割です。クリニックに来られる方の多くは、いくつもの医療機関を受診したけれど治らない、改善しないという方です。

--患者さんにとっては、たかが肌トラブル、ではないのですね。

三浦先生:
例えばニキビの治療一つとっても、以前の私はあまり深く考えず、抗菌薬(抗生物質)やビタミン剤、外用薬などを処方していました。しかし、ニキビにもいろいろ原因があり、対処法も異なります。一人ひとりの生活習慣や体質など、さまざまな要因を知ったうえで治療をしなければならないことを、患者さんを診ているなかで教わりました。

--その肌トラブルについてですが、一般的な皮膚の構造や役割とは何ですか。

三浦先生:
皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織の3層にわかれています。表皮は紫外線やウイルス、細菌といった異物が体内に侵入するのを阻止したり、体内から水分が蒸発したりするのを防ぐ、バリア機能を持っています。真皮はコラーゲンやエラスチンといった弾力線維からできていて、皮脂腺や汗腺、血管などがあります。皮下組織は主に皮下脂肪でできていて、外からの衝撃や刺激をやわらげるクッションのような役割をしています。

--シミやシワ、ニキビといった肌トラブルは、なぜ起こるのでしょう。まずシミについて教えてください。

三浦先生:
シミの種類やシミができる背景にはいろいろありますが、多くのシミはメラニンという褐色の色素によるものです。表皮のなかの真皮に近い基底層には、メラニンをつくるメラノサイトという細胞が存在します。メラノサイトは通常、紫外線や皮膚の炎症などがあると皮膚を守るためにメラニンを作りますが、それが過剰にできるようになるとシミとなってしまうのです。

--若いときは、シミができませんでした。

三浦先生:
子どもの頃は、紫外線を浴びても皮膚のターンオーバー(新陳代謝)によって、できたメラニンはどんどん捨てられていました。また、紫外線を浴びたときだけメラニンを作るという“受注生産”だったので、シミができにくかったのです。ところが、ある程度の量の紫外線を浴びると、メラノサイトがメラニンを過剰に生産するようになり、メラニンの在庫がどんどん溜まっていきます。そしてターンオーバー(排出)が間に合わなくなり、シミになってしまうのです。

--シミは、皮膚に残ったメラニンの“過剰な在庫”なんですね。ただ、女性ホルモンなどが関わってできるシミもあると聞いています。

三浦先生:
肝斑(かんぱん)ですね。顔の目の周囲から頬の両側にかけてできる“もやっとした”くすみです。女性ホルモンとの関係は以前から指摘されていて、経口避妊薬を使ったときや妊娠時にできやすいことが知られています。そのほかにも、間違ったマッサージをすると肝班になりやすいんですよ。おでこやあごに肝斑ができている方は、たいていマッサージが原因です。

--マッサージは小顔になりたくてときどきやっていますが、コツなどありますか!?

三浦先生:
強くこすらない、あるいはこすりすぎないようにするなど、正しい方法でマッサージをすることが大事です。

--続いて、シワはどうでしょうか。

三浦先生:
シワは、加齢により真皮の弾力線維が減ることに加え、笑ったりすることで表情筋がよれてしまうためにできます。これは衣類の“たたみジワ”のようなもので、一度たたんだだけではシワになりませんが、繰り返すことでシワができてしまうのです。また、ほうれい線は皮膚のたるみと口輪筋の使い過ぎで起こります。このほか、乾燥によってできるのが小ジワです。

--ニキビについても教えてください。

三浦先生:
ニキビは、皮脂腺が何らかの原因で詰まって、嫌気性菌のニキビ菌(アクネ菌)が増殖し、炎症を起こした状態を言います。ニキビというと思春期の象徴というイメージがありますが、実際は小学校高学年から更年期ぐらいまで一生悩まされると言っても過言ではありません。

--若いときと、大人になって生じるニキビとでは原因が違うのでしょうか?

三浦先生:
個々で違いますが、若い方では皮脂分泌が過多になることで生じることが多いです。“満員電車で大勢の人が改札に向かうけれど、出られる人数は限られているので、改札前には人がいっぱいたまる”--そのようなイメージですね。一方、大人のニキビは皮脂分泌の過剰はあまりなくて、どちらかというとターンオーバーが悪くなることで生じます。“皮膚表層の角質が皮膚のターンオーバーが悪くなることによりなかなか排出できず、結果的に出口付近を角質が塞いでしまい毛穴がつまってしまう”のです。さらに、その方の体質や生活の仕方、ストレスなども関わっています。

--原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っているわけですか?

三浦先生:
だから、その要因を探して対処法を見つけていくのですが、それが意外とたいへんで、初診に20~30分かかるケースもあります。皮膚科の病気や症状は目に見えていることが多いのですが、その原因まではなかなかわかりにくいです。皮膚科では「答えは患者さんが持っている」と言われていて、話を聞くことでいろいろな原因が見えてくるんです。

肌トラブルの主な原因
シミ(老人性色素斑、ソバカス、肝斑、炎症後色素沈着など)

メラノサイトという細胞がメラニンという褐色の色素を過剰につくることで生じる。女性ホルモンやマッサージなどによってできる場合がある

シワ(ほうれい線、表情ジワ、小ジワ)

真皮の弾力線維(コラーゲンやエラスチン)が減ったり、皮膚の同じ部分を動かしたりすることでできる。小ジワの原因は乾燥

ニキビ(若いときのニキビ、大人のニキビ)

若い人では皮脂分泌が過多になることで、大人のニキビは皮膚のターンオーバーが悪くなることで生じる。そのほか体質や生活の仕方、ストレスなども関わる

ニキビや疲れによる肌トラブルなどに漢方が有効

--先生は肌トラブルに漢方治療を行っています。

三浦先生:
すべての治療ではありませんが、ニキビや疲れによる肌トラブルなどで漢方薬をよく使います。外用薬などと合わせて処方することもありますね。クリニックで漢方薬を処方されることを知っている患者さんも多く、初診で「漢方薬を処方してほしい」と希望されることも少なくありません。漢方薬は保険診療の範囲で使えることが多いことも、患者さんにしてみたら魅力のようですね。
(漢方薬の保険診療について「漢方を知ろう」で詳しく解説しています。)

--漢方は以前から興味があったのですか?

三浦先生:
正直なところ、学生時代は漢方には興味を持てませんでした。ニキビという、いろいろな手段を用いないと改善が難しい病気と出会って、漢方をしっかり学ぼうと思いました。私の考える漢方とは、不健康な状態をもとのバランスのとれた状態に戻す手段のひとつで、自然の生薬を用いているという点も、受け入れやすかったです。

--漢方の診察は、西洋医学とは違っていますよね。

三浦先生:
はじめは勉強会に出たり、教科書を見たりして学びました。今は診察室に入ってくる患者さんを見ただけで、どんな漢方薬を処方するべきかが分かることも増えてきました。

--漢方の良さはどこにありますか?

三浦先生:
先ほど、ニキビの原因は若いときと大人とでは違い、また体質や生活の仕方、ストレスなども影響するとお話ししました。西洋医学では、ニキビ菌に対して抗菌薬の塗り薬や内服薬などを処方しますが、ニキビができやすい体質そのものは変えられません。それに対し、漢方薬は炎症を抑えることもできますし、なりやすい体質を改善することも期待できます。そういうところがメリットだと思います。まさに「皮膚は内臓の鏡」ということを念頭においた治療ができます。

--例えばニキビでは、どんな漢方薬を処方されますか?

三浦先生:
どちらかというと筋肉質で、体力がある方の、月経に伴うニキビには、桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)。体温が高く、赤いニキビができている方は清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)を使います。もちろんこれはあくまでも一例で、患者さんの体質やニキビの状態なども考慮します。

ニキビの漢方治療の例
桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)

どちらかというと筋肉質で、体力がある人。月経に伴うニキビができる人

清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)

体温が高く、赤いニキビができている人

--ニキビ以外ではどうでしょうか。

三浦先生:
疲れで肌トラブルを起こす方に漢方薬を使っています。最近の20代、30代前半くらいの女性は本当によく仕事をしていて、休みをとっていない方が多くいらっしゃいます。疲れると免疫が低下しますし、血行不良や脱水を起こしやすくなります。その結果、目の下にクマができたり、顔色が悪くなったりするんですね。そういう方には体力が低下したときに使う補中益気湯(ホチュウエッキトウ)を用います。

--漢方薬を飲むときの注意事項はありますか?

三浦先生:
飲み始めて1カ月ぐらいすると症状が改善される方もいるのですが、それ以降もやめないで飲み続けてほしいと説明しています。漢方薬のおかげで一時的に症状が改善しているだけであって、体質を変えるには少し長めに飲んでもらう必要があります。

外側だけでも、内側だけでもダメ。両方からのケアが大事

--ちなみに、漢方以外ではどういう治療をしていますか?

三浦先生:
例えば、シミに対してはハイドロキノンやレーザーを用います。ハイドロキノンは結構強い薬で、赤みやヒリヒリ感が出たりします。また、治療中はとくに紫外線対策をしっかりしないと、かえって症状が悪化することもあります。レーザーなどでもそうですが、こうしたことは事前にしっかり説明して、理解してもらった上で治療を始めることが大事です。もちろん、治療に加えて食生活や睡眠時間などについても指導します。

--先生が食や睡眠について話をされると、患者さんは驚かれませんか?「皮膚のことなのに、生活のことまで気を使うの?」って。

三浦先生:
いえいえ。むしろ逆です。クリニックに来る方は自分のカラダの不調に気を使える方で、少し意識が高いのかもしれません。食事はどうしたらいい? どんな栄養を摂ればいい? など、積極的に聞いてきます。

--どのようなアドバイスをされるのでしょうか。

三浦先生:
例えば、サプリメントにしても、何となく良さそうだからとマルチビタミンをとるのではなく、自分に必要な栄養素をとることが大事だと話しています。ビタミンCがいいのか、Eがいいのか、B系がいいのか、その方によって異なります。また、食べものに関しては、とくに旬のものをとることを勧めています。同じ野菜でも栄養価が違いますから。

--具体的にアドバイスされているのですね。

三浦先生:
それによってカラダの調子が整えば、おのずと皮膚も健康的になります。カラダと皮膚は切り離せないものです。

--これを食べると美肌になると言われる食べものはありますか?

三浦先生:
残念ながら、それはないです(笑)。フカヒレをいくら食べてもハリやツヤは出ないし、シワも伸びません。不足している栄養素を補うことでカラダが健康になり、皮膚の症状が改善されるのであって、何かの食品が皮膚に直接作用してキレイになるかといえば、それはおそらくないでしょう。当然ながら、保湿剤を使うとか、日焼け止めを塗って紫外線をガードするとか、外側からのお手入れも大切です。

--皮膚科医として、女性のカラダの不調で気になることはありますか?

三浦先生:
そうですね、ご自身の月経周期について把握されていない方が意外と多いのが気になります。診察時に患者さんに「月経はどうですか?」「月経不順はありますか?」と尋ねても、「わからない」と答えられます。当院では採血で女性ホルモンの値なども調べますが、なかには排卵していない方もいらっしゃいます。そのような方には婦人科の病気が隠れている可能性があるので、専門の医療機関を紹介することもあります。

--皮膚の症状には敏感ですが、月経に関しては無頓着なんですね。

三浦先生:
1年に2、3回しか月経がこないのに、本人は「ずっとそういう状態だから不順だと思わなかった」と、あっけらかんとしてお話されるんですよね。もちろん、その患者さんには婦人科で受診するよう紹介状を書きましたが、婦人科がん検診が始まる年代になる前は、妊娠でもしない限りなかなか産婦人科に行きませんね。

--でも、その患者さんは“皮膚科”の三浦先生に診てもらったことで、カラダの問題に気付くことができたわけですね。

三浦先生:
そうですね。こういうケースは少なくありません。

--今日は皮膚のこと、肌トラブルのことを、いろいろ教えていただきました。最後に漢方ビューの読者にメッセージをお願いします。

三浦先生:
「皮膚は内臓の鏡」というのはまったくその通りで、外側からだけケアしていても改善しませんし、内側からだけでも難しい。両方からのアプローチが欠かせないのです。少なくとも女性は、毎朝、鏡を見るわけですから、「何かおかしい」「変だな」と気付くはずです。そこで見つけたカラダのサインを見逃さないでほしいと思います。

(2014年8月取材)

先生のプロフィール

三浦麻由佳先生

東京銀座スキンケアクリニック
院長 三浦麻由佳先生

平成15年 日本大学医学部 卒業 慶応義塾大学形成外科 入局
平成18年 東京医療センター皮膚科 所属
平成20年 慶応義塾大学形成外科関連病院 勤務
平成21年 慶応義塾大学助教 就任
平成22年 都内美容皮膚科 副院長
平成24年 東京銀座スキンケアクリニック 開業