ようこそ、生薬のふるさとへ 北海道編
〜生薬を守り、育む夕張の優しい風〜
漢方薬は、植物や鉱物などの自然の恵みの生薬から生まれた薬です。だからこそ、原料となる植物の品質から管理がなされています。ツムラでは漢方製剤の原料となる生薬(薬用植物)の一部を日本国内6カ所で栽培しています。今回はその生産地の一つ、北海道夕張市を紹介します。
動画 漢方薬のふるさとを旅する 北海道編
秘密は爽やかな風にあった
新千歳空港から車でわずか1時間。北海道の空知(そらち)地方にある夕張の街に、ツムラの生薬の生産地があると聞いて訪ねてみました。
夕張は夕張岳をはじめとした山々に周囲を囲まれた街です。南北に細長い地形のため同じ市内でも場所によって高低差があり、気候が異なることで、桜の開花時期も変わってくるそう。今回訪問した生薬畑は、そんな夕張市の南に位置しています。
盛夏の時期に訪ねると、青空の下で赤紫色の葉が風に揺れている光景が目に飛び込んできました。薬用植物、蘇葉(そよう)です。
蘇葉とは紫蘇(しそ)を乾燥させたもので、乾燥した葉は生薬として香蘇散(こうそさん)や半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などの漢方薬に用いられます。夕張では毎年4月から種まきに着手し、7月下旬から9月にかけて収穫の最盛期を迎えるそう。花の部位は生薬と定められていないため、花が咲く時期まで刈り取りを行います。蘇葉は、種まきから半年足らずで約70㎝と膝上まで成長する生命力の強い植物。刈り取られたばかりの蘇葉はまだみずみずしく、さわやかな香りを放ちます。この新鮮さを失わないうちに、収穫した蘇葉は急いで乾燥工場へ運ばれるそうです。
収穫は1年で最も暑い時期に行いますが、畑をわたる風は不思議と涼やかです。
「この冷涼な気候が、蘇葉には向いているんですよ」
夕張ツムラ生薬栽培部業務課栽培係の神田昇太さんがこう教えてくれました。
蘇葉は熱や湿気に弱く、暑くじめじめした気候だとせっかくの美しい赤紫色の色素が抜けてしまったり、虫害に遭いやすくなってしまうそう。そうなると、生薬としての品質にも影響が及びます。その点、夕張は冷夏でも湿気が少ない爽やかな土地柄。また夕張岳を中心とした山々が、蘇葉が苦手な潮風から作物を守ってくれているそうです。
安定生産の栽培方法は長年の試行錯誤から
蘇葉をはじめ、北海道では自然の恵みをいっぱいに受けてさまざまな薬用植物が育てられています。しかし最初からうまく栽培できたわけではなかったそうです。薬用植物の栽培は、普段手に取る野菜や果樹の栽培に比べると生産規模が小さいため、農作業に使える機械や農薬の種類が少なくなります。効率的な栽培方法を確立するまでには課題も多かったといいます。
国内でより良い生薬を安定的に生産するためには、栽培方法の改良が必要ではないか。そんな思いから生産者とともに取り組んでいるのが、夕張ツムラです。
夕張ツムラでは、北海道と岩手県での生薬生産を一手に担っています。栽培に関しては生産者団体への委託とあわせて、夕張市と滝川市で、自ら生薬栽培にも取り組んでいます。農地は耕作放棄地や有休農地を自治体から借り受けたもので、地域活性化にもつながっているそう。また、自主管理の農地を生かして薬用植物の栽培に使う農機具の開発試験なども行っています。
例えば蘇葉は、以前は種を直接畑にまいて苗を育てていましたが、この方法では苗の成長が天候に左右されやすく、手間がかかります。そこで夕張ツムラが改良を提案。ハウスで苗を育成し、苗の植え付けを機械作業にする方法を開発しました。この改良によって、作業時間が従来の3分の1にまで短くなり、大幅な効率化が可能になったそうです。こうした一つ一つの積み重ねが、生薬の栽培の省力化に貢献しているのですね。
「一から栽培したものが、漢方薬となり病気や体調不良で悩む人たちの助けになっている。そう感じられることがやりがいになっています」神田さんは、生薬栽培のやりがいをこう話します。
生薬栽培が、夕張の新しい魅力になる
工場に運び込まれた蘇葉は、品質が落ちないうちに速やかに乾燥を始めます。ここで3〜4日かけて水分を飛ばすことで、保存性がぐんと高まります。
さらに夕張ツムラでは、収穫した蘇葉の受け入れ、乾燥、保管までの各工程で、何度も検査を重ねて、色や形、大きさなどが基準に満たしているかどうかを入念にチェックしています。機械による選別はもちろん、熟練の選別作業者が大量の蘇葉を手作業で選別しているというから、驚きです。さらに薬効成分が規定に達しているかどうかの科学的な検査も行なっています。
農作物に出来、不出来はつきものですが、医薬品には、品質のばらつきは許されません。「薬用植物は自然の産物ですので、どうしても画一的にはなりません。それをふるいにかけ、ツムラ独自の基準を満たした品質の原料生薬として出荷できるよう厳しく選別しています」と夕張ツムラ製造部製造課選別係係長の仲山毅史さんは話します。
妥協を許さず何度も確認を重ねて、生薬の安定した品質を守っているのです。こうして出来上がった原料生薬は、茨城県の石岡センターへ運び込まれます。
夕張ツムラでは蘇葉をはじめ、川芎(せんきゅう)や附子(ぶし)などの栽培も手がけ、薬用植物栽培は、地域の新たな産業の一つになりつつあります。いつか生薬の収穫が、夕張の新しい風物詩になるかもしれません。ぜひ、足を運んでみてください。
漢方薬のふるさとを旅する 北海道編
夕張のさらなる魅力や、収穫された植物が原料生薬になるまでの過程を動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
もっと知りたい!夕張おすすめスポット
豊かな自然と石炭産業の歴史が独自の魅力を作り出している夕張。夕張メロンに代表されるグルメや歴史を感じさせる遺跡など、魅力的な観光スポットが満載です。
なかでもぜひ立ち寄りたいスポットが滝の上公園です。夕張川が長い年月をかけて山を侵食してできた渓谷を歩くと、大小さまざまな滝や奇岩の迫力を体感できます。アイヌ語で「ポンソウカムイコタン(北方の神々が住むところ)」と呼ばれる光景はまさに絶景!このほかにも園内では春は桜、夏は新緑と、四季折々に異なる表情を満喫できます。