インタビュー

月経前に起こる精神症状「PMDD」について解説します。

先生のプロフィール

楠原ウィメンズクリニック 院長
(取材当時:医療法人社団 楠原レディースクリニック 院長)
楠原 浩二 先生

群馬大学医学部卒業。
東京慈恵会医科大学産婦人科に入局。東京慈恵会医科大学産婦人科講師、助教授を経て、楠原レディースクリニック開設・院長。
医学博士。
日本産婦人科学会会員、同学会認定医。
日本生殖医学会会員、同学会評議員。
日本受精着床学会会員、同学会評議員。
日本思春期学会会員。

楠原 浩二 先生

先生の健康アドバイス

PMDD(月経前不快気分障害)の女性が増えています

楠原先生インタビュー風景

産婦人科医としてずっと女性を診察して来ましたが、近年とても気になっているのは、「PMDD(月経前不快気分障害)」の方が増えているということです。
PMDDはあまり知られていないので、簡単に説明しましょうね。月経のある女性の場合、月経周期の中で女性ホルモンの状態が変動し、それにともなって体調も変化します。月経が始まる1~2週間ほど前から月経が始まるまでの期間に、イライラしたり、胸が張ったり、ニキビや吹き出物ができたりといったさまざまな不快な症状が現れる「PMS(月経前症候群または月経前緊張症)」は、ご存知の女性も多いでしょう。
昨今新たに問題になっているのが「PMDD(月経前不快気分障害)」です。PMSが身体症状と精神症状を含めた幅広い症状を指すのに対し、PMDDは精神症状が強く現れる場合を言います。一口に精神症状といっても、不安や緊張、イライラ、抑うつ状態、やる気がない、絶望感、焦り、自分のことを卑下する、怒りなど現れ方も程度もさまざまです。
少々のイライラは誰にでもあることですが、PMDDの場合はふだんの仕事に支障が出てしまうほど集中力を欠いたり、周囲に当り散らして家族や同僚とトラブルになったりするなど、その影響は深刻です。快適な社会生活を送ることができなくなってしまうんですね。
本人は自分でコントロールすることができないため、非常につらい思いをします。しかし不快な精神症状に悩まされる期間にSSRIという抗うつ剤を服用することで、解決できる場合も多いのです。「今回の月経前は、薬のおかげで驚くほど穏やかに過ごせた」と大喜びで報告してくれた患者さんもいます。

PMDDの患者さんは意外に多く、女性の約1%に上るといわれているほどです。自己チェックシートに自分の症状を当てはめてみて、心配なら専門医を受診してください。毎日元気に楽しく過ごすには、からだはもちろんのこと気持ちも健康であることが大切だと思います。

妊娠・出産を先延ばしにしないで

楠原先生インタビュー風景

そして不妊症を専門に扱う産婦人科医としてのアドバイスも。結婚していずれ赤ちゃんがほしいと思っている女性は、妊娠・出産の時機を逃さないようにしてほしいということです。
最近は結婚しても20代の間は夫婦2人の時間を楽しんでとか、しばらくは仕事を続けてなどと、妊娠・出産を先延ばしにする方が多くなっています。しかし先延ばしにしたあとに、「さぁ赤ちゃんを」と思っても、予定通りに妊娠するとは限りません。何も問題がない健康体でも、38歳を過ぎてくると妊娠しにくくなります。それどころか、なかなか妊娠しないので検査をしてみたら、妊娠しにくい体だった─とわかって慌てることも少なくないのです。そこから不妊治療をスタートしても、年齢が高ければ高いほど体外受精の成功率も低くなってしまいます。
また医療の発達で30代後半や40代の出産も難しくなくなったとはいえ、やはり高齢になるほど母体や生まれてくる赤ちゃんが抱えるリスクは高くなります。
夫婦二人の生活やお仕事は年をとってからでもできますが、妊娠と出産には確実にリミットがあります。赤ちゃんがほしいご夫婦は、なるべく早く赤ちゃんを作ることを考えてほしいと思います。
もっとも最近は分娩を扱う産科医が減少し、出産する病院を探すのも大変です。当院も分娩は扱っていないため、分娩は他院へ紹介をすることになりますが、施設が整った大きな病院は人気があって、検査で妊娠がわかった途端に分娩の予約を入れなければならない状況になっています。妊娠してもまたストレスを抱えなければならないわけですね。

タバコは百害あって一利なし、ぜひ禁煙を

楠原先生インタビュー風景

また、ふだんの生活で気をつけていただきたいのは、「タバコ」です。当院ではピルの処方もしていて、ピルを希望する方には診察のときに必ず喫煙歴を聞くのですが、喫煙者がとても多いんですね。4人にひとりくらいかな。本数を聞くと、びっくりするようなヘビースモーカーもいらっしゃいます。
現代を生きる女性たちは、家庭でも職場でも本当にストレスフルです。お酒を飲んだり、タバコを吸ったりするのは手軽なストレス解消手段のひとつでもあるでしょう。お酒の場合、適量なら血行を良くしたり気持ちをリラックスさせたりといったプラス面もあるのですが、喫煙は呼吸器に大きな負担をかける、がんをはじめとしたさまざまな病気が発症しやすくなる、肌が荒れるなど、いいことはひとつもありません。洋服やお化粧にお金と気を使っている女性が「肌がボロボロで…」と嘆くのを見ると、「タバコをやめればすぐにきれいになるのに…」と言いたくなっちゃう(笑)。喫煙している女性が妊娠した場合、低体重児が生まれやすいといった報告もあります。
診察室では、「タバコをやめないとピルは飲めません。ピルを飲むのをきっかけに、思い切って禁煙しましょうよ」と、お話しするのですが、「う?ん、少し本数を減らします」とお茶を濁し、きっぱりやめると約束する女性はほとんどいません。
私自身も長年タバコを吸ってきて何度も禁煙に失敗したので、やめたくてもやめられない気持ちはとてもよくわかります。禁煙直後から1週間はとくにつらくて、寝ても覚めてもタバコのことばかり思い出してしまうんですね。お酒の席ではちょっと一本吸いたくなっちゃいますしね。
でもその時期を何とか乗り越えたら、あとは楽。一ヶ月経つと、他人のタバコの煙が耐えられないくらいになります。みなさんも「一ヶ月だけなんとかがんばってみよう」と決心して、ぜひ禁煙を成功させてください。その一ヶ月間はお酒の席には出席しないほうが無難ですね。

先生の健康法を教えてください

時間を見つけて、楽しみながら歩く

楠原先生インタビュー風景

常日頃から患者さんには健康が大事だとお話していますが、私自身はみなさんのお手本になるような健康法を実践しているわけではないんです(笑)。もともとからだが丈夫で、これまで大きな病気もせず、元気に過ごしてきました。取り立ててスポーツもしていませんが、大学病院に勤めていた頃は、医局、診察室、病棟がある程度離れた距離にあったため、必要に迫られて歩いていましたね。歩数や距離を測っていたわけではありませんが、かなりの距離を歩いていたと思います。
しかし13年前にここ銀座にクリニックを開院してからは、座りっぱなしで診療する時間が多くなり、めっきり歩かなくなってしまいました。クリニック内を移動するといっても、たかが知れてますしね。そうなると体は正直で、体重が増え、中性脂肪やコレステロールの値もジワジワと上昇してきまして…。幸か不幸かすぐに検査ができる環境にいますから、メタボなからだを自覚せざるを得なくなりました(笑)。そこで数年前から、意識して歩くようにしています。昼休みは、銀座から皇居の千鳥が淵辺りまで早足で歩く。時間にして30分くらいでしょうか。帰りも歩くことはありますが、午後の診療があるので無理はせず、九段下駅から地下鉄で戻ってきます。毎回千鳥が淵というわけではなくて、そのときの気分と時間に合わせて近場であちこちへ行くんです。桜や紅葉など季節ごとの風景、名所、お祭り、ちょっとした買い物などを楽しみながら歩いています。楽しんでやらないと運動は続きませんからね。
「楽しみながら」というのは1年ほど前から始めたゴルフにも共通しています。始めたばかりですし、しょっちゅうできるわけではないのでうまいとは言えませんが、グリーンをまわるときは外の景色を楽しみ、きれいな空気をいっぱい吸い込む。ホール間の移動はカートには乗らず、歩いています。ウォーキングのおかげで健康的に痩せました。
私の場合、健康法に関しては模範になるような例ではなく、ちょっと歩くだけでも続けることで健康を維持できるといった例でしょうね(笑)。でも無理をしていないので、ストレスも解消されて、体だけじゃなく気持ちの上でも健康に過ごせています。
どんな生活をしていてもストレスを感じざるをえない大変な世の中ですが、それでも女性は強くて元気だなと感心します。いつも前向きな気持ちで人生を楽しんでほしいものです。

※掲載内容は、2009年3月取材時のものです。

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