排卵から受精、着床までの流れ

一つの精子と卵子が結ばれることで生まれる新しい命。その過程はとても神秘的です。
女性のカラダでは、次の月経開始日のおよそ2週間前に「排卵」が起こります。卵巣から排卵された卵子は卵管の先端である卵管采から取り込まれ、卵管膨大部へ向かいます。子宮側からやってきた精子と出会って結合すると、それが受精卵となります。
受精卵は分裂しながら細胞数を増やし、受精後3〜5日かけて子宮にたどり着いた後、子宮内膜に結合し(着床)、2〜3日かけて内膜に潜り込みます。こうして妊娠が成立します。受精から着床までの期間は1週間〜10日といわれています。

不妊の原因①「月経不順」の原因と漢方

成人女性の場合、月経周期は25〜38日、月経期間は3〜7日です。量はもっとも多い日で2〜3時間に1回、ナプキンを替えるぐらいが一般的です。この期間や量に当てはまらない場合は、ホルモンバランスの乱れや排卵障害が起きていたり、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が関係していたりすることがあるので、産婦人科で相談したほうがいいでしょう。
月経不順をもたらす大きな要因の一つが、過度なストレスや極端なダイエットです。
脳にある視床下部は自律神経系(交感神経・副交感神経)の調整にも関わっています。視床下部は大脳辺縁系の指令を受けるため、過度なストレスで激しい感情が大脳辺縁系に起こると、視床下部もそれに伴って大きな影響を受けます。
女性ホルモンは、視床下部、脳下垂体、卵巣という順序で指令を受けて分泌されます。そのため、過度のストレスは自律神経系のバランスを崩す原因となるだけでなく、月経不順や無月経の原因にもなります。
一方、極端なダイエットでは、カラダに必要な栄養が十分に摂取されず栄養失調状態に陥ります。カラダは生命を守ろうと生命維持に必要な臓器に栄養を使うようになり、生殖機能は後回しになります。その結果女性ホルモンがつくられにくくなり、月経不順や無月経になるのです。
ダイエットだけでなく、太りすぎも月経不順や無月経を起こします。脂肪細胞が女性ホルモンのはたらきを妨げたり、ホルモンをつくる脳下垂体や卵巣のはたらきを弱めたりするためです。
こうした月経不順の治療に漢方薬が用いられることがあります。
漢方には、「気・血・水(き・けつ・すい)」という概念があり、月経不順の多くに「血」巡りの滞りにあたる「瘀血(おけつ:いわゆる血行不良のような状態)」が関わっています。また、最近はストレス社会を反映していて、「気」巡りのバランスが崩れて起こる「気虚(ききょ:気が不足した状態)」や「気鬱・気滞(きうつ・きたい:気の巡りが障害された状態)」、「気逆(きぎゃく:気の巡りが逆行した状態)」が関係しているケースもあります。「水」巡りのバランスが崩れて起こる「水毒(すいどく:余分なところに水分が滞り、必要な部分では不足する状態)」が関係しているケースもあります。
漢方では、こうした「気・血・水」の乱れを整えることで月経不順を解消していきます。

ダイエット・肥満と女性ホルモンの関係

不妊の原因②「冷え」の原因と漢方

男性より女性に「冷え」が多いのは、カラダのつくりが男性と女性とで違っていて、女性の方が冷えやすい構造になっているため。女性が冷えやすい理由は大きく2つあります。

女性が冷えやすい理由

男性より筋肉が少ない 筋肉を動かすことで熱がつくられ、カラダが温まるが、女性はもともと男性より筋肉が少ない上筋肉がつきにくい構造になっているため、熱をつくり出す力が弱く冷えやすい。筋肉量が少ないと熱を運ぶ血流も悪くなり冷えの原因となる。
月経がある 月経が近くなると、子宮を温めるために子宮への血流が増えることで手足などの末端が冷えやすくなる。また、月経前はカラダが水分を溜めこみやすく、むくみやすい状態になることも冷えを誘発する原因に。月経時に熱を運ぶ血液が多量に奪われることや、月経血を排出するために子宮を収縮させるホルモンの分泌が増え、血管が収縮しやすくなることも、カラダが冷えやすくなる原因となる。

カラダの状態を整えて症状を改善していく漢方にとって、病気とまではいかない「冷え」のような不調に対する治療はまさに得意とするところ。「冷え」は熱産生が低下しやすい気虚(エネルギーが不足している状態)や血虚(「血」が不足している状態)、熱の運搬が滞る瘀血(「血」の巡りが滞っている状態)や水毒(「水」の巡りが滞っている状態)などで起こりやすいとされ、漢方はこうした原因や病態などを考慮して治療を行っていきます。

不妊症とは?〜漢方でできること〜

不妊症とは、医学的には、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、避妊することなく通常の性生活を継続的に送っているにもかかわらず、一般的に1年以上妊娠しない状態(※)」のことを指します。近年の出生動向基本調査によると、6組に1組が不妊の検査や治療を受けているといわれています。
不妊の原因はさまざまですが、大きく女性側の問題(卵巣や排卵の異常)と男性側の問題(精子の量や運動率)とに分かれます。主な原因は下の表に示しますが、免疫系の問題などが絡んでいたり、原因が分からなかったりするケースも少なくありません。
※妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わない

不妊症の主な原因

女性側 ① 排卵の問題 卵巣機能不全(卵が育たなかったり、育っても排卵しなかったりする)
多嚢胞性卵巣(卵胞が育っても、卵巣の皮膜が硬くて排卵できない)
高プロラクチン血症(母乳の分泌を促すプロラクチンというホルモンが多量に分泌され、排卵が抑制される)
② 卵管の問題 卵管狭窄(卵管が狭い)
卵管癒着(手術後の癒着や子宮内膜症による癒着)
卵管閉鎖(卵管が完全にふさがっている)
③ 子宮の問題 子宮筋腫(子宮内に筋腫ができ、着床を妨げる)
子宮内膜ポリープ(子宮内膜にポリープができ、着床を妨げる)
子宮内膜症(子宮内にある内膜組織が何らかの原因で子宮以外の場所にでき、そこで増殖する)
子宮頚管粘液不全(頚管粘液の分泌量が少なく、精子がたどり着きにくくなる)
黄体機能不全(妊娠維持に必要な黄体機能ホルモンの分泌が悪く、子宮内膜の分泌性変化が起こらない)
④ 免疫系の問題 抗精子抗体(精子を障害する抗体)
精子不動化抗体(精子の運動を止めてしまう抗体)
⑤ 原因不明 検査をしても明らかな原因がみつからない
男性側 ① 精子の問題 乏精子症(精子の数が少ない)
精子無力症(精子の運動能力が低く、運動している精子が50%以下)
無精子症(精液中に精子が観察できない)
② 性機能の問題 勃起障害
腟内射精障害

不妊治療では西洋医学的な側面から原因を調べ、治していくことがとても重要です。 しかし、治療をしてもなかなか妊娠に至らなかったり、不妊の原因が分からなかったりした場合、漢方薬が有効なことがあります。また西洋医学的な治療を補うかたちで漢方薬を用いることもあります。
器質的な異常だけでなく、女性の冷えやストレス、肥満や極端なやせなども不妊の原因となりうるため、そのような状態を漢方薬で改善していくことにより妊娠成立しやすい状態に導いていきます。

監修医師

麻布ミューズクリニック 院長 玉田 真由美 先生
院長 玉田 真由美 先生

熊本大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院医学研究科修了。 熊本大学医学部附属病院第二内科(現:血液膠原病内科)入局後、熊本大学医学部附属病院を中心に熊本県内の病院で内科診療に従事したのち、亀田総合病院附属幕張クリニックで消化器内視鏡検査の研鑚を積む。
慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御部門にて癌の代謝を中心に研究を行い学位取得。
自身の体調不良が漢方治療で改善されたことをきっかけに、慶應義塾大学漢方医学センター、自治医科大学東洋医学部門、麻布ミューズクリニックにて漢方を学び、2016年4月より麻布ミューズクリニック院長就任。自治医科大学地域医療学センター東洋医学部門非常勤講師。
医学博士・日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医 ・日本東洋医学会漢方専門医

関連コンテンツ