インタビュー

PMSの症状やその改善法について解説します。

先生のプロフィール

成城松村クリニック 院長 松村 圭子 先生

1995年広島大学医学部卒業、広島大学医学部産科婦人科学教室入局。現在に至る。婦人科専門医として、月経トラブル(月経前症候群、月経困難症、月経不順)、婦人科検診、更年期障害などの治療の他、女性のあらゆる不調に対応するためにサプリメントや漢方、オゾン療法、各種点滴療法などでのケアを幅広く取り入れている。 婦人科、日本産科婦人科学会専門医。

松村 圭子 先生

先生の健康アドバイス

PMSの患者さんには漢方薬を処方

松村 圭子 先生

当院は婦人科のクリニックということもあって、受診される患者さんには月経困難症などの月経トラブルを抱えた方や、更年期の症状を抱えた方がやはり多いですね。ただ、ここ最近は、月経前のある一定の時期だけイライラする、眠れない、落ち込むといった症状に悩んで、受診される方が増えてきているように思います。 女性の方ならすでにご存じかもしれませんが、このような月経前に決まって現れるカラダやココロの不調を、「PMS(月経前症候群)」と言います。月経前は感情の波を自分でコントロールできなくなるほど、イライラしたり、落ち込んだりするのですが、月経が始まるとそうした症状がスーッと消えていく。これがPMSの大きな特徴です。症状が出るタイミングを「スイッチが入るような感じ」と話された患者さんもいました。

クリニックに来られるPMSの患者さんの多くは、ご主人やお子さん、仕事関係の人に 当たってしまったことを後悔し、自己嫌悪に陥っています。実は、PMSの大きな問題は、この“イライラ→自己嫌悪→イライラ……”という悪循環が繰り返されるところにあります。PMS自体がストレスとなり、症状がだんだん重くなったり、月経前でなくてもメンタル的な不調が出たりするようになってしまうのです。

こうしたPMSの治療では、抗うつ薬や睡眠薬などが用いられることもありますが、こうした薬に抵抗感を覚える女性も少なくありません。私自身も患者さんの状態や希望に合わせて治療を進めた方がいいと考えています。 そこで重宝しているのが、漢方薬です。具体的には、加味逍遙散(かみしょうようさん)や抑肝散(よくかんさん)などを、患者さんの症状や体質などに応じて使っています。最初から漢方薬を希望される方もいますが、そうでない方でもこちらが漢方薬による治療を提案すると、すんなりと受け入れてくれます。漢方薬の自然な感じ、穏やかに効いていくといったイメージが、女性に受け入れやすいのかもしれませんね。

ホルモンの変化だけではないPMSの理由

松村 圭子 先生

たくさんの患者さんを診ていて感じるのは、PMSになる人はそれなりの理由がある、ということです。 医学的に言えば、PMSは女性ホルモンの分泌バランスが大きく変化することがきっかけで生じます。しかし、こうした変化は月経のある女性であれば誰でもあることです。にもかかわらず、PMSがある人・ない人、軽い人・重い人がいるのは、ホルモンの変化だけで片付かない、何か別の理由があると考えた方が自然です。 私は、ホルモンの変化だけでなく、「ストレス環境」や「その人のもともと持っている性格」という要素も大きいと考えています。

まずストレス環境についてですが、ストレスがかかると脳の視床下部が乱され、自律神経のバランスが狂ってきます。その結果、イライラや不安といったココロの症状や、カラダの症状が出てきます。 これは見方を変えれば、ストレスのある環境から解放されればPMSはよくなるということ。実際、ある患者さんは、お子さんの受験が終わってストレスから解放されたとたんに、PMSが軽くなりました。

一方、性格については、漢方の考え方でいう「気の滞りやすい人」がPMSになりやすいような印象を受けます。気の滞りはストレス環境が原因で起こる場合もありますし、その人の体質としてもともと持っている場合もあります。同じ出来事でも、それをポジティブに捉える人とネガティブに捉える人とがいますよね。そういう違いです。ネガティブに捉える人の方が気は滞りやすいような気がします。 ただ、体質だからといってあきらめることはなく、漢方薬で気を巡らせたりすることはできますし、見方を変えるように意識することでも、だいぶ変わってくると思います。

女性の場合、その生涯の約半分を女性ホルモンとの関わりの中で生きています。1回のPMSで苦しむのは数日かもしれませんが、それが毎月毎月、何十年と続くことを考えたら、それだけ貴重な時間が奪われてしまうわけで、それはやはりもったいないですよね。 その貴重な時間を少しでも快適に過ごすために、今できること。それはPMSの治療であり、ケアなのです。

病院に行くことで人生が変わることも

そのために必要なのは、「こんな症状で受診したら笑われるかも」と思わず、病院やクリニックを訪ねる勇気です。 最近は疲れやすいとか、肩がこるとか、むくむとか、そういう不調で受診される方も増えています。こうした不調は放っておかず、きちんとケアすべきもの。そんな意識を持つ女性が増えてきた一方で、受診することにためらいを感じている女性も少なくありません。しかし、どんな不調であれ苦痛に思うのであれば治療をすべきですし、それによって人生が変わるかもしれません。

私が診た患者さんで、印象に残っている方を紹介します。この方の訴えはPMSではありませんでしたが、クリニックに来たことがいい転機になったという方です。 Aさん(20代半ば)は、少しぽっちゃりとした女性。ご自身の体型にとてもコンプレックスがあったようで、何度もダイエットを試みていました。ただどれも長続きせず、そういう自分に自信が持てなくなっていました。 とにかく「痩せたい」という一心でクリニックを訪ねてきたAさんに、漢方薬を処方すると同時に、食事や運動についてアドバイスしました。すると、Aさんは3カ月あまりで体重が約5kg減。オシャレにも興味を持つようになり、ミニスカートでクリニックに来るようになりました。初めのうちはずっとうつむいていたAさんでしたが、次第に表情も明るくなり、積極的に自分のことを話すようになっていました。嬉しそうに「ボーイフレンドができた」と報告してくれたことを、いまも覚えています。

Aさんの場合、当然、西洋医学的に見て明らかな病気だったわけではありません。ただ、やせたい、何とかしたいという気持ちがクリニックに行くという勇気につながり、冷えやむくみなどの不調も改善、結果として人生を大きく変えることができたのだと思います。

先生の健康法を教えてください

松村 圭子 先生

日々続けているような健康法はとくにないのですが、心がけていることはあります。 一つは、「自分に都合がいいような見方をする」ことです。こう言うと誤解されるかもしれませんが、要は発想の転換が大事ということです。事実は一つかもしれませんが、それに対する見方はたくさんあります。ポジティブな見方、落ち込まないような見方をしたほうがストレスも溜まりませんし、自分にとってもプラスに働くような気がします。

もう一つは、単純ですが「無理はしない」ということです。 私も実は周期的に体調が悪くなります。それがあらかじめわかっているので、診療以外の仕事は前倒しでやっておくようにしています。体調がよい時期にはできるだけがんばり、つらいときはセーブする。自分の仕事量と体調に応じたペース配分が大事です。 バランスというと、仕事とプライベートのバランスも重視しています。1日のうちでもONとOFFをしっかりわけますし、年間を通しても、この時期はしっかり休むというスケジュールを組んでいます。OFFのときは必ず一人になる時間を設けて、アロマを炊いたり、愛犬と遊んだりしています。

漢方ビュー読者にメッセージを

松村 圭子 先生

女性は、女性ホルモンの影響を受けて不調をきたしやすい生物です。最近は、そういう女性のカラダのしくみを考慮した医療が重視されてきています。かつては治療の対象にならなかった月経トラブルや更年期の症状も、きちんと治療をしてQOL(生活の質)を維持することが大切だという考え方が広まっています。

不調はガマンしたりやり過ごしたりするものではなく、積極的にケアする。そのためにも、不調を気軽に相談できる“かかりつけ医”の存在が欠かせません。特に、婦人科はホルモンバランスなどを考慮して診察にあたるので、できれば婦人科のかかりつけ医を持つことをおすすめします。 女性の場合、一生のうちで何度かカラダの状態が大きく変わる時期が訪れます。そうしたときに少しでも元気に、快適に過ごせるよう、20代、30代のうちに小さな不調の芽を摘んでおくことが大切です。

※掲載内容は、2012年3月取材時のものです。

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