インタビュー

「かかりつけ医」と共に自身の健康を考えましょう。

先生のプロフィール

こころとからだの元気プラザ 診療部長
女性のための生涯医療センター
慈恵会医科大学産婦人科講師
小田 瑞恵 先生

東京慈恵会医科大学卒業。医学博士。
東京慈恵会医科大学附属病院、東京都がん検診センターを経て、2002年より女性のための生涯医療センターVIVIに勤務。
日本産婦人科学会専門医。
日本臨床細胞学会専門医。
International Academy of Cytology Cytopathologist。
マンモグラフィ検診精度管理中央委員会 読影認定医。

小田 瑞恵 先生

先生の健康アドバイス

婦人科の「かかりつけ医」を持ちましょう

小田先生インタビュー風景

ここ20年ぐらいの間で、女性を取り巻く環境は大きく変わってきました。
少し前までは、女性は結婚して、子どもを産んで、育てて・・・という妻や母としての役割が女性には求められていましたし、女性もそれを当然として受け入れていました。
しかし、今は違います。社会に出て積極的に仕事をする女性もめずらしくないですし、結婚する・しない、子どもを産む・産まないなど、いろいろな生き方が女性でも選べるようになりました。これを一口で表すとしたら、「女性の社会進出」と「生き方の多様化」につきると思います。

そして、この社会進出と生き方の多様化は、女性の心と体のトラブルにもちょっとした変化を与えていると言えます。
例えば、以前は嫁姑・夫婦・親子などの問題だったり、ご近所との付き合いだったりと、家庭や地域での問題がストレスの大きな原因になっていました。
それが、社会に出て仕事をするようになった今、家庭や地域のストレスに、会社での人間関係や仕事そのものや家庭と仕事の両立など新たなストレスが加わりました。
また、女性は月経という男性とは違う体の変化があります。初潮があって、性成熟期を経て、閉経を迎えます。社会で男性と同じような生活を送るようになったことで、より女性特有の体の変化とうまく付き合っていかなければなりません。さもなければ、大きなトラブルを招いてしまいかねないのです。
その人その人にあったライフスタイルや人生観の中で、健康を考えていく。今はそういう時代なのです。

ところで皆さんは「かかりつけ医」を持っているでしょうか。
頭が痛いとか、風邪をひいたとか、そういうときにかかる内科医だけでなく、月経トラブル、性に関する悩み事など女性特有の問題について気軽に相談できる婦人科のかかりつけ医を持っていたほうが安心だと思います。
産婦人科と言うと、かつて女性が子どもをたくさん産んでいた時代は、「妊娠や出産のときに行くもの」という意識がありました。確かに当時はそれでよかったかもしれませんが、晩婚化や少子化、高齢出産の傾向が強まっている今、「妊娠してから産婦人科」と言っていては、受診するタイミングが遅れ、がんなど大きな病気を見逃してしまう可能性があります。
また、気兼ねなく相談できるような、婦人科のかかりつけ医がいれば、「旅行だから月経をずらしたい」とか、「大事な試験の日だから、月経痛にならないようにしたい」といった要望にも応えることができます。
不妊症についても、子どもが産みたいと思ったときにあわてる方が多いのですが、かかりつけ医がいれば、事前から不妊症予防についてアドバイスを聞けたり、原因となるような病気があれば、それを治療することで、「欲しいときに産める状態」を作っていくことも可能だと思います。

こうした、患者さんとかかりつけ医の良好な関係は双方で築いていくものです。
私はこれまでたくさんの患者さんを診ていますが、初診でいらした患者さんについて、限られた診察時間の中で細やかな部分まで把握するのは、正直なところできません。患者さんにしても、医師との人間関係が築けていないうちは、自分の悩みについてなかなか本音を話せないと思うのです。
患者さんの仕事や家庭などの背景を理解した上で、診察するのが理想的ですが、このような関係は何回も患者さんが通っているうちにできてくるもの。皆さんも、ぜひご自身に合ったかかりつけの婦人科医を作って欲しいですね。

婦人科検診にも行きましょう

小田先生インタビュー風景

女性の健康で欠かせないことが、かかりつけ医を持つことの他に、もう一つあります。それは婦人科検診に行くことです。
最近の傾向として私が感じているのは、ご自身の健康にとても意識が高く、定期的にきちんと検診を受けられる方と、まったく関心がなくて検診どころか、病院にも行ったことがないという方がいるということです。タイプが二極化していますね。
とくに後者では友だち同士で話をして、「私もそんなものよ」と言われると、何となく安心してしまって、検査を受けない。それで初期のがんを見過ごしていたとしたら、とても怖いことなのですが…。

やはり検診はしっかりと受けてほしいのです。
代表的な婦人科検診には、子宮頸がん検診と乳がん検診があります。子宮頸がん検診のうち、子宮の入り口を綿棒などでこすって細胞をとってくる細胞診や内診(子宮や卵巣などの状態、骨盤内の状態を診る)は、職場の検診でも、自治体の住民検診でも行っています。
乳がん検診は自治体では40才以上を対象に視触診とマンモグラフィ検査(乳房X線検査)を行なっています。
女性特有のがんには、子宮体がんもあります。これは更年期前後から増加するので、更年期あたりから検診を受けましょう。

もちろん、職場や自治体の検診で十分なのですが、少し経済的にゆとりのある方は、人間ドックを受けてもいいかもしれません。
例えば当院では、「ViViドッグ」という名前で人間ドックをしています。子宮頸がん検診では、内診や細胞診、問診のほか、超音波検査(内診で分からないような小さな病変を見つけることができる)やコルホスコープという拡大鏡を用いた検査をします。これはより精度を高め小さな病変から発見するためです。HPV(ヒトパピローマウイルス)のチェックも、30代以上の女性には勧めています。
乳がんに関しても、超音波検査とマンモグラフィ検査を併用したりするなど、精度の高い検診を心がけています。

漢方ビュー読者にメッセージを

「やせ」と「タバコ」は女性の大きな問題です

小田先生インタビュー風景

今、私が気にしているのは、若い女性の「やせ」です。やせている女性に「やせ願望」が強いことも大問題です。なぜなら、そういう女性があこがれているスタイルは、健康からかけ離れているからです。
やせが、女性の健康にどのようなダメージを及ぼすか、ご存じですか?体重減少性の無月経、月経不順、骨粗鬆症、貧血などの原因になりますし、女性ホルモンのバランスが乱れるので、赤ちゃんを作りにくい体になりやすいです。
さらに、やせ願望の強い女性が妊娠すると、妊娠中も太らないようにするため、赤ちゃんが小さく産まれてしまいます。先進国で出生児の平均体重が減っているのは、なんと日本だけなのです。

日本では「小さく産んで、大きく育てる」という風習がありますが、最近それはちょっと危険ということもわかってきました。
もちろん極端な肥満は良くありませんが、胎児期に長期間低栄養状態にさらされ低体重で生まれた赤ちゃんは、将来的に生活習慣病を発症しやすいということが分かってきました。胎内で低栄養という環境にさらされることで、低栄養でも成長できる体質に変化し、それが飽食の日本の社会で育つことで、栄養過多になり、生活習慣病をまねくと推論されています。

もう一つの女性の問題は、タバコです。女性のなかでもとくに若い人の喫煙が増えています。ご存じの通り、喫煙は肺がんのリスクを高めます。その他にも血行不良や、肌荒れやしみができやすくなりますし、不妊や自然流産、早産の危険性も高まります。
タバコは健康にとっていいことは何もないわけですから、吸っている人は今すぐ禁煙してほしいですね。

女性は、不定愁訴や冷えなどちょっとした体調不良を起こしやすいといえます。日頃の健康力をアップするためには、不定愁訴をできるだけなくす心がけが大事です。そういう意味では、漢方薬は体質改善や不定愁訴など女性に見られるさまざまな不調に、昔から用いられてきた薬ですので、安心して長期で使うことができます。
日本の女性の寿命は世界一ですが、元気でいられる「健康寿命」と寿命とはイコールではありません。かかりつけ医による健康管理や定期的な検診、セルフケアで、この健康寿命と寿命との間をできるだけ縮めることが大切です。

※掲載内容は、2009年8月取材時のものです。

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