インタビュー

健康維持に重要な「腎臓」について解説します。

先生のプロフィール

亀田総合病院腎臓高血圧内科 部長 小原 まみ子 先生

金沢大学医学部卒業。東京大学医学部第一内科、虎の門病院腎センターを経て、米国コロラド大学医学部腎臓病高血圧科留学。妊娠・心不全・肝硬変などの浮腫性疾患の体液調整について研究。研究リーダーを務める。その後、東京大学、東取手病院、都立駒込病院での診療を経て、再渡米し、コロラド大学腎臓病高血圧科 Visiting Professor(客員教授)。帰国後、亀田総合病院に赴任し、現在に至る。

小原 まみ子 先生

先生の健康アドバイス

腎臓は、とても重要な臓器なのです

小原先生インタビュー風景

私の専門は、腎臓病です。皆さんは、腎臓についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。腎臓は、おしっこを作って、水や老廃物を出すだけでしょうか。
腎臓は実は、さまざまな働きをしています。尿を作ることで、血液中の余分な水分や老廃物を身体の外に出すのも大切な働きの一つなのですが、それだけでなく、体内のナトリウムやカリウム、カルシウムなどの電解質を調整したり、酸性アルカリ性のバランスを整えたり、造血ホルモンを作ったり…。おそらくふだん思っている以上に、腎臓ってとても重要な臓器なんです。
そして、いまこの腎臓が障害を受ける「CKD(慢性腎臓病)」が世界中で注目されています。わが国のCKDの患者数は1330万人と推定されていますが、これは成人人口の1割以上(約13%)に相当します。とても多いですよね。つまり、自分では「病気はなくて健康だ。」と思って暮らしている人のなかに、実はCKDである方がたくさんいるということなのですね。最近、CKDは症状がなくても後ほどお話するような心臓・脳・血管などの重要な病気予防のポイントであり、早期から進行を抑えることが大切であること、そして、そのためにはどうすればいいか、だんだんわかってきました。ですから、CKDだと気づいていない「普通のひとたち」にこそ、CKDのことを知ってもらいたいということで、2006年には、毎年3月の第2木曜日が「世界腎臓デー」として制定されました。

腎臓の働き(機能)が悪くなると腎不全といわれる状態になっていき、進行すると足りない腎臓の働きを補う治療が必要になります。その腎臓機能を補う治療である透析という治療については、名前を聞いたことがある方はいらっしゃるのではないでしょうか。進んだ腎不全では、大きく分けると2種類の透析治療がありますが、人工腎臓と呼ばれる装置で腎臓の働きを補う治療に週に2-3回通う「血液透析」治療か、自分で一日に数回おなかの中に入れた透析液を自宅や職場で交換しながら月に1-2回病院に通院する「腹膜透析」治療をしていくことになります。さらには、腎臓移植という治療もありますが、いずれにしても、誰でも、できることなら、このような透析治療や腎臓移植が必要にならないようにしたいですよね。そのためにも、腎臓は大切にしなければならないのですが、最近、それ以外にも、CKDが進むのを抑えなくてはいけない重要な理由があることがわかってきました。それは、何百人〜何万人というひとを調べた大きな調査や研究がたくさん出されて最近明らかになってきたのですが、腎臓と心臓・脳にはさまざまな共通点があり、腎臓が悪くなると、心筋梗塞や脳卒中といった心臓や脳の血管の病気にもかかりやすくなるということです。つまり、「腎臓の健康を保つ」ということは、「心臓や脳の健康を保つ」ということになるわけです。
腎臓はとてもがまん強い臓器で、少し傷んだくらいでは自覚症状として表れません。何か症状が出たときには、すでに大事になっている可能性が高いのです。しかも、腎臓は一度、壊れてしまうと、基本的には元に戻りません。だからこそ、腎臓を大切にして健康に保つようなケアを毎日の習慣にしてほしいのです。

腎臓を健康に保つ6つの方法

小原先生インタビュー風景

心がけたい大切な生活習慣のポイントは、具体的には次のようなものです。

①塩分摂取量は1日6グラム未満にする
②コレステロールや飽和脂肪酸(肉の脂など)はできるだけ摂らない
③肥満を改善する
④適度な運動をする
⑤飲酒量は適量(1日の総量として、ワインならば180ml、ビールならば大ビン1本、日本酒ならば1合)まで
⑥禁煙する

ここにあげた6つのポイントは、慢性腎臓病(CKD)の進行を抑え、心臓や脳の血管を守るために、とても重要です。そして、CKDの進行を抑えるために大変重要であることが明らかになってきた血圧をしっかりコントロールするためにも有効なのです。
家庭での血圧の目標値の具体的な数字としては、CKD のあるひとの場合は、125/75mmHg未満、CKD のない65歳未満のひとの場合は、125/80mmHg未満です。「あら、けっこう低いのね。」と感じられる方も多いのではないかと思います。その通りです。さきほどお話したような数多くの調査・研究によって、昔、考えられていたより低いこのような血圧まで下げることが、腎臓だけでなく、心臓や脳の血管にとっても、障害を進行しないようにするため大切なことがわかってきたためです。

これらのポイントなかでも最近特に注目されている大切なものとして、塩分摂取が挙がります。
いまの日本の人たちは1日あたり11〜12グラム摂取していますので、半分ぐらいまで減らすということになります。
これは一見、大変そうに思えますが、出汁やスパイス、ハーブ、レモン、酢を上手に利用する、麺類の汁を残す、煮物を減らす、「かけ醤油よりつけ醤油」(つけ醤油の方が同じ味の感じ方でしょうゆの摂取量を抑えられます。)など、さまざまな工夫で減らすことができます。また、外食についても、最近はメニューに塩分量が出ているものも多くなりましたので、チェックしてから選ぶとよいと思います。

定期的に健診を受け、尿検査をチェックすることも大切です。
健診結果で、「血圧が高い」、あるいは「たんぱく尿がある」といったことがわかったら、そのままにしないで、まずかかりやすい近所の内科などでいいと思いますので、必ず医師に診てもらいましょう。先ほどもお話したとおり、腎臓は何か問題があっても自覚症状が出にくい臓器です。ですので、こうした健診結果を踏まえて早め早めに対策をとることが、腎臓を守ることにつながります。

「妊娠高血圧症候群」 妊娠中も出産後も健診を忘れないで。妊娠前の健康管理も大切

女性の場合、腎臓を大切にすることは、妊娠中を健やかに過ごすことにもつながります。
妊娠すると、体が大きく変化します。具体的には、心臓から出て体内をめぐる血液の量は30〜50%ほど増えると同時に、腎臓の機能も30〜50%ほどアップします。そうしないとお母さんの健康を保ち、赤ちゃんを養う環境が保てないのです。

妊婦さんの中には、いまでは「妊娠高血圧症候群」と呼ぶようになった、いわゆる「妊娠中毒症」になるひともいらっしゃいます。
本来、妊娠中は血圧が下がるのですが、なかには妊娠中に血圧が上がってしまう方もいて、そういう状態を「妊娠高血圧症候群」と言います。
正常妊娠の妊婦さんでは、血管は妊娠していないときよりゆったり開いた(拡張した)状態になっているのが普通なのですが、血管の拡張と収縮のコントロールが悪くなって異常な収縮をしてしまうことが「妊娠高血圧症候群」の原因と考えられています。さらに、最近、この異常な血管収縮を生み出す主な原因が、妊婦さんのおなかの中で胎児を養うための胎盤が作られるときの問題であることがわかってきました。このように、妊娠高血圧症候群にとって重要な原因となる胎盤が作られる妊娠早期の妊婦さんの身体の状態には、妊娠前からの糖尿病・肥満・高血圧・腎臓病などの妊娠前の身体の状態も大きく影響しますので、女性の日頃からの健康管理は、健やかな妊娠のためにも大切になるわけです。
「妊娠高血圧症候群」は妊婦さんにとってのリスクだけでなく、おなかの赤ちゃんにとっても成長がしにくくなったり早産になったりすることも少なくありません。そのため、重症の妊娠高血圧症候群の妊婦さんは、NICU(新生児集中治療室)があったり、産婦人科以外にも腎臓などの専門の医師がいたりする、比較的大きな病院に転院するなど、慎重にケアをしながら出産を迎えることが必要になります(軽症の場合は継続してかかりつけの病院で診ることもあります)。
妊娠中はお母さんの自覚症状がなくても、お母さんの血圧や赤ちゃんの成長の状態などを知ることが大切になりますので、妊婦健診は必ず受けて、お母さんと赤ちゃんの健康を常にチェックしておきましょう。

また、お母さんは出産後も定期健診を受けて、尿中にたんぱくが出ていないか確認することも大事です。
腎臓の専門科のところには、クリニックや医院から「『風邪で体調が悪いのがなかなか治らない』と受診した女性の血液検査をしてみたら、すでに腎不全の段階。すぐに人工透析をお願いします。」と、ご紹介されてくる方が多くいらっしゃいます。
そういった方々に聞くと、「そういえば、妊娠中にたんぱく尿が出たため、妊婦健診を受けていたのですが、出産後は育児が忙しく健診を受けている時間が取れず、そのままになっていました。」といったことが結構多いのです。子育てに精一杯で自分の身体のことは後回しになっていたのでしょう。この方が、出産後も検査を受ける機会があったら、もう少し早く病院に来られていたら、腎臓病の進行を遅らせることができた可能性があり、人工透析は避けられたかもしれません。そう考えると、とても悲しく、残念でなりません。

先生の健康法を教えてください

常に「前向き」でいること

小原先生インタビュー風景

早いもので、医師になって22年になります。
これまでたくさんの患者さんにお会いしていて感じたのは、科学で説明するのは難しいのかもしれませんが、前向きに考えて、前向きに対応される方のほうが、ものごとが好転していきやすい、ということです。
もちろん、私がお会いする方々は患者さんですから、何かしら症状や病気、不安を抱えています。健康な方よりは心身ともに良い状況とは言えないのですが、それでも、前向きな方には、協力してくれる方が現れたり、事態が好転したりするんですよね。本当に不思議なくらい。

そういうこともあって、私自身も「前向き」に考えるようにしています。
実は、こどもの頃の自分を思い出すと、どちらかというとペシミスト(悲観論者)で、不安をいっぱい抱えていたように思います。それが、医師となり病気を抱える患者さんと多く接するようになって、「前向きでいよう」と自分自身に言い聞かせるようになり、今ではすっかりその考え方が身に付いてきています。
第一、医師が落ち込んで後ろ向きな気持ちになっていたら、患者さんは「救われない」気分になってしまうでしょうから。

では、どうしたら前向きになれるのか。これはなかなか難しいところですが、こんなエピソードを思い出します。一つの方法として、ご参考にしていただけたら、幸いです。

以前、私が担当していた女性外来に、Aさんという女性が、めまい、だるさ、頭痛など様々な体調不良を訴えて来られました。診察の結果では身体的な問題はみつからなかったのですが、Aさんはとてもつらい経験をいくつもされておられ、それが様々な症状として表れているように思われました。彼女のおかれている状況から察すると、致し方ないのかもしれませんが、そのときのAさんは何から何までものごとをすべて悪い方に考えてしまうようでした。
そこで「一つ悪いことがあったら、一つ良いことがなかったか探してみませんか」と提案してみたのです。そして、Aさんと相談してこれを「よいこと探し」と呼ぶことにしました。それ以来、外来では一通り話をされた後、「今回はどういう良いことがありましたか?」とお聞きするようになりました。そして、こういう会話を何回か重ねるうち、ご自身から「今回はこういう悪いことがあった。けれど、そういえば、こんな良いこともあった」と話されるようになったのです。そうしていくうちに、Aさんの表情がだんだん明るくなり、体の不調も軽くなっていきました。
今ではAさんは女性外来を卒業しましたが、これは彼女自身ががんばり「前向きな姿勢」を身につけたことがもたらした成果ではないでしょうか。そういう意味で、今も忘れられないエピソードです。

漢方ビュー読者にメッセージを

女性であることを、社会にプラスに活かしませんか。

小原先生インタビュー風景

今の20代、30代の女性には、とても期待しています。日本の、世界の未来を担ってくれる、新しい社会を作ってくれる方々だと・・。期待があまり重荷になってはいけないのでしょうが、前向きに、そして、何ごとも楽しみながらがんばって欲しいと思っています。
仕事をしていくなかで、女性であるということがマイナスに捉えられてしまうことがあると思います。その一方で、女性であることが、仕事自体や、一緒に仕事をする人たちにとって、プラスになることがあるように思います。
こどもの頃、私の母がこんなことを言っていました。「何人の男性が集まってもそれは『集団』にしかならないけれど、女性が1人入ると『家族』ができるのよ」と。
実際、仕事でも、女性が加わることで新しい見方が生まれたり、細かい部分に目が行き届いたり、職場の雰囲気が穏やかになったり……そういうことってありますよね。女性には、女性だからもたらすことができるよい特徴・利点があり、それを活かすことが、自分にとっての仕事だけでなく、仕事仲間、ひいては社会全体にとって、プラスになるように思います。つまり、男性と女性、両方いることが、補い合い、さらに相乗効果をもたらし、とても重要ということになるではないでしょうか。
ですから、男性と張り合うという気持ちで、無理をして意地を張って生きるのではなく、女性であることに誇りを持って、前向きに、「良いこと探し」をしながら生きて欲しいと思います。女性独自のセンスが社会に求められているのです。心から応援しています。

※掲載内容は、2011年1月取材時のものです。

関連コンテンツ