悩み別漢方

月経不順(生理不順)

まとめ

月経不順(生理不順)とは
月経周期が規則的にならなかったり、月経の量や期間が一般的な状態から極端に外れたりしている場合を、「月経(生理)不順」と呼びます。
月経不順(生理不順)の治療
月経不順に対する治療は、原因となっている病気や抱えている問題によって、変わってきます。ホルモンの分泌異常が原因であれば、ホルモン剤でからだの機能をもとに戻していく治療をします。漢方薬も積極的に使われます。子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因で起きているときは、まずはその病気を治すことから始めます。
病院での診察
漢方医学の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、ご自身の症状とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも病気の原因を探るために必要な診察です。
月経不順

月経不順(生理不順)のメカニズム

女性は思春期から閉経にいたるまでの間で、妊娠、授乳期以外は定期的に排卵と月経(生理)を繰り返します。このサイクルのことを「月経(生理)周期」といいます。成人女性の場合、月経周期は25~38日、月経期間は3~7日が標準です。量については具体的に調査されているわけではありませんが、もっとも多い日で2~3時間に1回ナプキンを替えるくらいが一般的だと言われています。

そして、この月経周期が規則的にならなかったり、月経の量や期間が一般的な状態から極端に外れたりしている場合を、「月経(生理)不順」と呼びます。
月経周期の早い状態が「頻発月経」、遅い状態が「稀発(きはつ)月経」で、月経期間の短い状態が「過短月経」、長い状態が「過長月経」です。また、月経の量が多い状態を「過多月経」と、少ない状態を「過少月経」といいます(表参照)。今まで定期的にあった月経がこない場合を「無月経」といいます。

月経周期と期間

月経周期 25日〜38日
平均は28日
月経期間 3日〜7日
平均4.6日

月経周期や期間の異常

月経周期が24日以下 頻発月経
月経周期が39日以上 稀発月経
月経期間が2日以下 過短月経
月経期間が8日以上 過長月経

月経の量の異常

月経の量の異常 過多月経
月経量が少ない 過少月経

思春期や閉経前の更年期は、からだが大きく変化することから、月経不順になるのがふつうです。個人差はありますが、一般的には、初経(初潮)から4~5年ぐらいして女性ホルモンの分泌が順調になると、周期は安定し、女性ホルモンの分泌が低下しはじめる40歳を過ぎたあたりから、周期は少しずつ乱れてくるようになります。もちろん、妊娠中や授乳中は排卵や月経がありませんから、この時期は月経不順にはあたりません。

月経周期や期間は個人差が大きく、体調や環境の変化でも変わるので、過度に神経質になる必要はありません。しかし、何カ月も月経が来なかったり、何週間も長引いたり、夜用のナプキンを1時間ずつ交換しなければならないなど、極端に経血量が多かったりする場合は、子宮や卵巣などに何らかの問題が起こっている可能性があります。
例えば、稀発月経の場合は、卵巣や下垂体(脳の下にあるホルモンを分泌する器官)などに問題があることがあります。半月に1回ぐらい月経がきてしまう頻発月経の場合は無排卵が、月経量が多い場合は子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜増殖症などの病気が疑われます。そのほか、甲状腺の病気(バセドウ病や甲状腺機能低下症など)や肝臓病、糖尿病などが原因で月経不順になることもあります。
無月経(続発性無月経)は、過度なストレスや極端なダイエット、肥満、スポーツのしすぎなどによる無排卵が原因で起こることもあります。とくに最近は若い女性にダイエットによる無月経が多く見られ、問題になっています。

月経不順に対する治療は、原因となっている病気や抱えている問題によって、変わってきます。ホルモンの分泌異常が原因であれば、ホルモン剤でからだの機能をもとに戻していく治療をします。漢方薬も積極的に使われます(詳細は後述)。子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因で起きているときは、まずはその病気を治すことから始めます。
ホルモンや卵巣、子宮などに問題があって、月経不順となっている場合、将来、不妊の原因になる恐れがあります。とくに無月経の場合は、長引くと排卵が完全に止まって、子宮や卵巣の機能が失われてしまいます。そこまでいかなくても、月経が順調になるまで時間がかかります。月経周期や期間、量が気になったら、できるだけ早く産婦人科で診てもらうようにしましょう。

漢方薬による治療

漢方医学では、昔から月経と女性の不調との関係について注目しており、月経が乱れる原因とその治療法について、さまざまな研究がなされてきました。ちなみに、昔は月経のことを月水、月信、月次、経行といい、月経不順を経乱、頻発月経を経早、稀発月経を経遅、無月経を暗経などといっていたようです。

漢方の考え方のひとつに、「気・血・水(き・けつ・すい)」という概念があります。これは、気・血・水のバランスが取れている状態が心身共に健康であり、これらの1つ、あるいは複数が異常をきたし、3つのバランスが乱れると、病気や不健康な状態を招くという考えです。

月経不順では、「血」の異常にあたる「お血(いわゆる血行不良)」が主な原因であるとされています。ただし、最近はストレス社会を反映しているのか、気・血・水の「気」の異常である「気虚(ききょ:気が不足した状態)」や「気鬱気滞(きうつ・きたい:気の流れが障害された状態)、「気逆(きぎゃく:気の流れが逆行した状態)」が最初にあり、その気の異常がお血を引き起こし、月経不順を招くというケースが多くなっています。

気と血の異常がもたらす症状

血の異常(お血) 頭痛・肩こり・腹部膨満感 など
気の異常(気虚・気鬱・気滞・気逆) イライラ・抑うつ症状・不安感・集中力の低下・無気力 など

漢方医学では、同じ月経不順でも、その人の体質や症状によって異なった漢方薬が処方されます。たとえば、中肉中背で体力があまりなく、手足が冷えるような人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が、体力はあまりないけれど、イライラ、頭痛、不眠、不安感が強いような人には、加味逍遥散(かみしょうようさん)が用いられます。体格ががっちりしていて、便秘がちな人には、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が使われます。もちろん、この他にも、その人の状況によって処方される漢方薬は違ってきます。

月経不順に有効な主な漢方薬

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、通導散(つうどうさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、温経湯(うんけいとう)など

漢方医学の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、ご自身の症状とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも病気の原因を探るために必要な診察です。
また、月経不順では下垂体や卵巣や子宮の異常など、大きな病気が背景にある可能性もあります。漢方薬による治療を希望する場合も、事前に必ず西洋医学的な検査を受けるようにしましょう。

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

伊豆美レディスクリニック
院長
坂本 伊豆美先生
坂本 伊豆美 先生

北里大医学部卒業。北里大学病院でレジデントを終了後、北里大学産婦人科助手となる。米国ジョンホプキンス医科大学留学、川崎市がん検診センター出向後、北里研究所病院産婦人科に17年間勤務し、産婦人科副部長となる。同院に女性科を立ち上げ、女性科部長を併任。2008年7月に伊豆美レディスクリニック(横浜市)を開院。日本産婦人科学会専門医、日本細胞診学会専門医、癌学会会員、検診マンモグラフィー認定医、産婦人科乳癌学会乳房疾患認定医。日本女性医学会認定女性ヘルスケア専門医。
『30歳からの「女性のからだ」の守り方』(オレンジページ)を監修・出版。

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