まとめ

頻尿・尿漏れとは
頻尿とは、排尿回数が増加すること、尿漏れとは排尿する前に尿がもれてしまったり、くしゃみなどおなかに力を入れたときに思わず尿が出てしまったりすることを言います。
頻尿・尿漏れの治療
漢方の治療では、腎虚、水毒・水滞、お血など排尿のトラブルの背景にある原因を探り、正常にして、頻尿・尿漏れを改善していくことを目的にします。また、最近では細菌感染がないにもかかわらず、頻尿に下腹部の不快感、蓄尿時の痛み、残尿感が合併する膀胱痛症候群/間質性膀胱炎という病気の存在が明らかになっていますが、漢方薬で、下腹部の不快感や痛みなどを改善させることができます。
病院での診察
漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。胃腸の具合や月経の状態、日常生活のことなど、頻尿・尿漏れとはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、いずれも薬を決めるための手がかりになりますので、重要です。
頻尿・尿漏れ

頻尿とは、排尿回数が増加すること、尿漏れとは排尿する前に尿がもれてしまったり、くしゃみなどおなかに力を入れたときに思わず尿が出てしまったりすることを言います。頻尿の原因は水分の摂りすぎ、膀胱や前立腺など泌尿器関係の病気、加齢、排尿に関係する筋肉の低下、神経の病気、心因性のものなど、さまざまです。尿漏れの原因も多様で、泌尿器関係の病気や糖尿病、加齢、筋肉の低下、神経の病気などが挙げられます。いずれも年齢とともに増えている症状で、40歳以上の1~2割の人が排尿に関するトラブルを抱えていると言われています。

頻尿・尿漏れのメカニズム

通常、私たちは日中に5~8回トイレに行き、夜間にはほとんどトイレに行かないと言われています。頻尿とは、昼間や夜間の排尿回数が通常より多くなった状態で、原因は神経に問題がある場合(脳血管障害や脊髄損傷など)とない場合(水分の摂りすぎ、膀胱炎などの感染症、前立腺肥大、加齢、骨盤底筋・尿道括約筋の機能低下など)に分かれます。頻尿というのは一つの症状ですが、2002年の国際尿禁制学会では、尿意切迫感(抑えきれない尿意)をメインに、頻尿や夜間頻尿がある場合をまとめて「過活動膀胱(OAB)」として扱うようになりました。

過活動膀胱の症状

尿意切迫感 急に起こる、がまんできない尿意。
昼間の頻尿 日中の頻尿(回数はとくに決められていない)
夜間の頻尿 トイレのために夜、1回以上起きる
切迫性尿失禁 抑えきれない尿意が起こると同時に、尿がもれてしまう

一方、尿漏れは、自分の意志とは関係なく尿がもれてしまう現象で、尿失禁とも言います。原因によっていくつかのタイプに分かれますが、下記の表のほかにも薬の影響などによって尿漏れが起こる場合があります。ちなみに、女性に多いのは腹圧性尿失禁です。

尿漏れのタイプ

腹圧性尿失禁 くしゃみやせきをしたとき、重い荷物を持ったときなど、おなかに力が入ったときに尿がもれるタイプ 骨盤底筋や尿道括約筋のゆるみ
切迫性尿失禁 尿意をもよおした途端にもれてしまう、あるいはトイレに間に合わずにもれてしまうタイプ 膀胱炎、尿路結石、過活動膀胱など
溢流性(いつりゅうせい)尿失禁 膀胱内に尿が出きらないで残ってしまい、尿意を感じないにも関わらず、尿がもれてしまうタイプ 前立腺肥大、膀胱瘤など

頻尿・尿漏れの薬物治療、非薬物治療

頻尿の治療は、感染症があるときは抗菌剤で感染を抑えます。また、排尿は自律神経のはたらきに支配されており、副交感神経から出るアセチルコリンという物質が関係しているため、この物質のはたらきを抑える薬「抗コリン薬」を用いて治療にあたることもあります。ただ、抗コリン薬は閉塞隅角緑内障の人には用いることができないうえ、のどの渇き、ふらつき、便秘などの副作用が5~20%程度出現するという問題があります。また異常な膀胱収縮を抑えると同時に正常な膀胱の収縮を抑えてしまうことから、尿が出にくくなる尿閉という合併症も1%未満ですが、出現する可能性があります。
尿漏れに対しても、抗コリン薬がよく用いられますが、頻尿と同じように閉塞隅角緑内障の人に対しては使用できず、副作用の注意が必要となります。尿漏れの抗コリン薬以外の治療法としては、β刺激薬などの内服薬、腹圧性尿失禁を予防する体操(骨盤底筋体操と呼ばれています)や、電気・磁気刺激療法、手術療法(TVT手術、TOT手術)などがあります。

漢方薬の治療

漢方の概念には、「気・血・水(き・けつ・すい)」というものがあります。「気」は生命エネルギー、「血」は血液とそのはたらき、「水」は血液以外の水分と考えられています。頻尿や尿漏れなどの排尿に関するトラブルは、この3要素のうちの「水」に異常をきたす「水毒水滞」によって生じる症状です。

さらに、こうした原因を作り出すのが、「水」の状態を調整している五臓六腑、「(じん)」です。腎といっても、腎臓というひとつの臓器だけを指すのではなく、排尿・排泄、水分代謝、ホルモンバランス、記憶力などを総合したはたらきを表します。腎の機能が衰える「腎虚(じんきょ)」という状態になると、「水」に関する異常が起こってくるわけですが、その一つの症状が排尿のトラブルです。 また、寒くなるとトイレが近くなるように、こうした排尿トラブルの根底には「冷え」があると捉えています。前述した腎虚も冷えによってもたらされることが多いことが分かっています。そのほか、「血」の滞りで生じる「お血」も腎虚に関わることがあります。

漢方の治療では、こうした腎虚、水毒・水滞、お血など排尿のトラブルの背景にある原因を探り、正常にして、頻尿・尿漏れを改善していくことを目的にします。また、最近では細菌感染がないにもかかわらず、頻尿に下腹部の不快感、蓄尿時の痛み、残尿感(尿が残った感じがする)が合併する膀胱痛症候群/間質性膀胱炎という病気の存在が明らかになっていますが、漢方薬で、下腹部の不快感や痛みなどを改善させることができます。

頻尿・尿漏れの治療で用いることが多い漢方薬

八味地黄丸(はちみじおうがん) 体力中等度以下で、疲れやすく、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿な方の排尿困難、頻尿など
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん) 体力中等度以下で、疲れやすく胃腸障害がなく、尿量減少又は多尿な方の排尿困難、頻尿など
猪苓湯(ちょれいとう) 体力に関わらず使用でき、排尿異常がある方の排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿など
清心蓮子飲(せいしんれんしいん) 体力中等度以下で、胃腸が弱く、全身倦怠感がある方の残尿感、頻尿、排尿痛など
小建中湯(しょうけんちゅうとう) 体力虚弱で、疲労しやすく、頻尿および多尿をなどを伴う方の小児虚弱体質、小児夜尿症

先ほど、頻尿や尿漏れに使う西洋薬(抗コリン薬)の場合、副作用があり、薬が使えない人もいると言いましたが、こうした薬に取って代わる方法として、最近は、西洋医学からも漢方薬の効果が期待されるようになっています。実際、過活動膀胱に対する牛車腎気丸の研究も行われています。

漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。前述したとおり、胃腸の具合や月経の状態、日常生活のことなど、頻尿・尿漏れとはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、いずれも薬を決めるための手がかりになりますので、重要です。

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

医療法人LEADING GIRLS 女性医療クリニックLUNAグループ
理事長
関口 由紀先生
関口 由紀 先生

1989年山形大学医学部卒。横浜市立大学医学部泌尿器科、横浜市立市民総合医療センターを経て、2000年湘南鎌倉総合病院に婦人科泌尿器センターを設立。2005年4月に横浜元町女性医療クリニック・LUNAを開業した。現在横浜市立大学医学部泌尿器科女性泌尿器外来も担当している。漢方については、1994年頃から丁宗鉄先生や、石川友章先生に師事した。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本東洋医学会専門医、指導医。著書に『尿のトラブル がまんしていませんか?(講談社発行)』。

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