まとめ

心不全とは
心不全とは、心臓が悪いために、息切れや浮腫みが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気と定義されています。
心不全の治療
西洋治療では血管を拡張させる薬や、利尿効果のある薬、ホルモンや代謝を調整する薬、自律神経を介して心筋の収縮を調整する薬など、心不全の改善に有効とされる薬を組み合わせて使用していく薬物治療が中心となります。
また、運動療法と食事療法を基本とする心臓リハビリテーションは、入院中だけでなく外来通院治療においても医療保険の適用となっており、心不全治療の基本となっています。
漢方医学では、病を「気・血・水(き・けつ・すい)」の失調としてとらえます。心不全の患者さんは、気の不足である「気虚(ききょ)」または気の滞りである「気滞(きたい)」、血の不足である「血虚(けっきょ)」、水の問題である「水毒(すいどく)」が起こっていることが少なくありません。
複数の症状に対応ができる漢方薬はとても有用で、西洋治療とも併用が可能なものが多いので、一緒に使うことで自覚症状が改善したり、少ない量の西洋薬の使用ですむことがあります。
病院での診察
漢方の診察では、「四診」と呼ばれる独自の方法がとられます。症状や生活について詳しく尋ねたり、舌を診たり、お腹や脈を触ったりして診察をしていきます。漢方の力をしっかりカラダに届かせるためにも、医師や薬剤師と二人三脚で治療にあたることが大事です。
心不全

心不全の症状

心不全とはどのような病気なのでしょうか。
日本循環器学会と日本心不全学会は、「心不全とは、心臓が悪いために、息切れや浮腫みが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義しています。

心不全の患者さんは年々増えていますが、その理由のひとつは高齢化です。心臓は生まれてから24時間365日、休むことなく働き続けています。このため、心臓の機能は他の臓器と同様に、加齢の影響で低下する傾向があります。日本では公衆衛生の進歩により、平均寿命が延長しており、令和5年現在、約3人に1人が65歳以上となっています。この人口の高齢化が心不全患者の増加に関わっていることは間違いありません。
そしてもうひとつの理由は、医療の進歩です。
心筋梗塞や狭心症、不整脈、心臓弁膜症といった心臓の病気の多くは手術や薬による治療が可能になりました。例として、心筋梗塞の急性期院内死亡率は1978年からの約40年間で20%から5%前後にまで大幅に低下しています。医療の進歩により救命率が向上したことは素晴らしいことですが、一方で、心筋梗塞の後遺症により、健康状態が大幅に低下した状況、つまり日常生活において安静にしていても倦怠感がとれなかったり、軽度の運動での呼吸困難感が生じたり、身体が浮腫んでつらいといった心不全症状を抱えたままで生活していかねばならず、健康寿命はそれほど改善していないともいわれています。

心不全の症状が強い場合は食欲も低下し、筋肉が痩せてしまう悪液質、と呼ばれる状態に陥ります。一般に悪液質となる前に、あるいは悪液質となっても初期のうちに、食欲を回復させ、食事内容を見直して適切な栄養を摂取できるようにすること、さらに運動療法やリハビリテーションに取り組むようにして、悪液質を回避・治療することが大切になります。食事療法と運動療法は心不全治療の基本であり、実際の診療現場でも医師や看護師だけでなく、管理栄養士や理学療法士といったさまざまな職種が協働して、患者さんや患者さんの家族と協力して治療に取り組むことが標準化しつつあります。

心不全の症状

倦怠感、動悸、息切れ、やせた、食欲がない、お腹がはる、便秘、寒がり、冷えると調子が悪くなる、疲れやすい、転びやすい、やる気が出ない、風邪を引きやすい、眠りが浅い、胸やお腹が痛い、足がむくみやすい、こむら返りがよく起こる、肌や爪が荒れている、肌の色が悪い、めまいがするなど多彩で非特異的な症状

心不全の治療(西洋治療)

西洋治療では血管を拡張させる薬や、利尿効果のある薬、ホルモンや代謝を調整する薬、自律神経を介して心筋の収縮を調整する薬など、心不全の改善に有効とされる薬を組み合わせて使用していく薬物治療が中心となります。

心不全に対して西洋治療で使用される薬の種類や量は、血圧や心拍数、血液検査の数値、心臓超音波検査の結果などの、客観的な数値データの結果から選択されます。したがって、西洋治療ではデータが似た値を示す患者さんでは、同じ薬が選択されることが多くなります。
薬物治療のみでは効果が認められない場合や、不十分である場合には、開胸手術や経カテーテル治療、ペースメーカー治療などが検討されます。
運動療法をはじめ、食事療法や、禁煙・節酒、服薬、血圧や体重を毎日測定して病状を自分で管理する方法を学ぶ心臓リハビリテーションは、入院中だけでなく外来通院治療においても医療保険の適用となっており、心不全治療の基本となっています。

心不全の主な治療薬(西洋薬)

心不全の治療薬には様々な種類があります。症状や病気の状態に合わせて適切な薬を組み合わせます。

心臓を保護し心不全の進行を防ぐ ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)
MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
心臓を休ませる β遮断薬
Ifチャネル阻害薬(HCNチャネル遮断薬ともいう)
尿量を増やす 利尿薬
心臓の働きを一時的に強める 強心薬
心臓と腎臓を保護し心不全の進行を防ぐ SGLT2阻害薬

心不全の症状に対する漢方薬の活用

漢方医学では西洋医学とは異なり、薬の選択に当たって客観的な検査データは用いられません。
その代わりに、独自の「四診」と呼ばれる方法により、患者さんの見た目、症状や生活の話、脈やお腹を触ったりする診察によって得られる情報を指標として判断し、一人ひとりの患者さんの「証」に応じた漢方薬が選択されます。このため、同じように心不全、といっても、患者さんによって異なる種類の漢方薬が選択されます。

漢方医学の「気・血・水(き・けつ・すい)」という概念でみると、心不全の患者さんは、気の不足である「気虚(ききょ)」または気の滞りである「気滞(きたい)」、血の不足である「血虚(けっきょ)」、水の問題である「水毒(すいどく)」が起こっていることが少なくありません。

心不全では、上述の倦怠感、呼吸困難、浮腫、食欲不振に加えて、口渇、皮膚の乾燥、筋力低下やこむら返りなど、いろいろな症状がみられるようになります(人によって症状の出方は異なります)。中には西洋治療では十分な症状の改善が得られないような場合もあり、複数の症状に対応ができる漢方薬はとても有用です。漢方薬は、西洋治療とも併用が可能なものが多く、一緒に使うことで自覚症状の改善が得られたり、少ない量の西洋薬の使用で十分な効果が得られたり、とさまざまなメリットがあります。

例えば、お腹の筋力が低下しており、食欲がなく、食べる気力がないといった人には「六君子湯(りっくんしとう)」が選択されます。同じようにお腹の筋力が低下しているけれど、胃のあたりが詰まった感じがしたり、いろいろ不安で気になる、といったタイプであれば「茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)」が選択されます。食欲は大きな問題はないけれども、倦怠感やめまいがあったり、足がむくみやすい、というような人には「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」が選択されます。
このほかにも、患者さん一人ひとりの特徴に応じて、漢方薬を使い分けることになります。

心不全の患者さんが訴える不調に使われることが多い漢方薬

六君子湯(りっくんしとう)、茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)、大建中湯(だいけんちゅうとう)、麻子仁丸(ましにんがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、五苓散(ごれいさん)、真武湯(しんぶとう)など

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

京都大学医学部附属病院 循環器内科 助教 小笹 寧子先生
小笹 寧子 先生

京都府立医科大学医学部卒、京都大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程にて循環器内科学を専攻し臨床研究を学ぶ。専門は心臓リハビリテーション。京都大学医学部附属病院循環器内科助教、同リハビリテーション科兼任、同漢方診療ユニット兼任。

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