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漢方×ストレスケア しなやかなレジリエンス(回復力)を身につける

ストレスの多い現代社会を生きる女性には、自らの力で回復する「レジリエンス」が欠かせません。ツムラでは、PRESIDENT WOMAN主催のレジリエンスを身につけるための特別オンラインセミナーに協賛。漢方に精通した心療内科医の姫野友美先生と脳神経学者の細田千尋先生をゲストにお招きし、ストレスを感じる脳の働きや、ストレスケアへの漢方の生かし方などについてお話をうかがいました。

Lesson1 Science『脳科学から読み解く 折れない心の作り方』

セミナー第1部では、ストレスに負けないしなやかな心をどうつくっていくのか、脳科学の観点から細田千尋先生にお話しいただきました。

細田千尋先生
細田 千尋先生/医学博士、帝京大学先端総合研究機構で研究室を主催。東京大学大学院総合文化研究科研究員、東京医科大学血管内治療科非常勤講師を兼任。素質個人差や、やり抜く力などの個人特性を脳特徴量から定量化し、BRAIN x IOT インタラクションによる、新しいオーダーメイドでwell-beingを達成する行動変容法の開発とその元となる基礎研究を実施。

現代の女性には、頭痛やだるさなどの不調を隠して仕事や育児をこなす“隠れ我慢”をしている方が少なくありません。隠れ我慢の怖いところは、うつ病などの診断基準を満たさない点。生産性の低下などリスクがすごく大きいのに、クリニックに行っても病気とは診断されないので、将来のリスクが高いのに、適切な治療の機会が乏しくなってしまいます。

グラフ
出典:「隠れ我慢調査」(2021年1月、株式会社ツムラ実施)

そこでセルフケアとしてのストレスコントロールが重要になります。同じようなストレスを経験しても、どれだけ精神的打撃を受けるのかは個人差があります。心身に不調をきたす人もいれば、ストレスを跳ね除けて立ち直れる人もいます。竹のようにしなやかにストレスから回復する力をレジリエンスと呼びます。

ストレスに強い人と弱い人では何が違うのでしょうか。これまでの研究では、脳の前頭前野や頭頂葉などの「中央実行機能系」が活発な人は、ストレスをうまく交わし、物事をやり抜く力があることがわかっています。前頭前野とは脳の中で進化的に最も新しくて高度に進化した部分のこと。「社会脳」とも呼ばれ、意思決定や善悪の判断など高いレベルの思考を担うほか、衝動を抑制する働きもしています。

逆に自信過剰な人は物事をやり遂げにくく、前頭前野の発達度合いは相対的に低くなっています。「自分はこれだけできるはずだ」と過大評価していると、思いどおりにならない現実がストレスになってしまうんです。ダイエットを例にとるとわかりやすいですよね。「こんなに我慢しているのになぜ体重が減らないの?」と感じてしまいます。自分の頑張りと結果にギャップがあるからです。

何歳からでも脳を変えていくことはできます。まずは「スモールステップ」を踏んでいくことが大事です。能力に対する適切なゴールを設定し、何度も目標を達成していく。そこで自分の能力を俯瞰して正しく把握していけば、結果に落胆することはありません。また目標達成を繰り返すことで、自己肯定感が育まれていきます。自己肯定感は社会的ワクチンとも呼ばれ、ストレスケアにおいて非常に重要になります。小さなステップの積み重ねが結果的に、前頭前野を発達させ、ストレスに強い心を手に入れることにつながります。

Lesson2 Medical Care『漢方と栄養でストレスケア』

セミナー第2部では、ストレスマネジメントとして意識すべき栄養の摂り方、漢方の利用法などについて姫野友美先生にお話しいただきました。

姫野友美先生
姫野 友美先生/医学博士、心療内科医、ひめのともみクリニック院長。東京医科歯科大学卒業。2006年~2021年、日本薬科大学漢方薬学科教授を務める。「心療内科に行く前に食事を変えなさい」「美しくなりたければ食べなさい」など著書多数。

人はストレスにさらされて生きています。そこで長期間大きなストレスが続くと時に心身に不調をきたしますが、一方で人間はストレスを跳ねのける力も持っています。人間に本来備わっているストレスからの復元力や復活力をレジリエンスと呼びます。

このレジリエンスを高めるには、体中にしっかりと栄養を行き渡らせる必要があります。特に脳は大食漢でエネルギー消費量は全体の18%と、実は筋肉と同程度のカロリーを使っています。ですから、脳にどれだけ十分な栄養を与えられているかは非常に重要。まずはタンパク質、脂質、鉄、そしてビタミンB群という4つの栄養素をしっかり摂取してください。これらの栄養素はセロトニンやドーパミンなどの脳内ホルモンの分泌にも関わっており、必要な栄養素を整えれば自然と気持ちが整います。

また、ストレスケアには漢方も有効です。漢方では「気・血・水(き・けつ・すい)」の3つのバランスと「」によって患者さんを診て、処方を考えます。「気」は生命のエネルギーの源。「血」は栄養素を運んだり、老廃物を流したりする血の流れ。「水」は特に免疫をコントロールするものです。このバランスが崩れると不調になります。

「証」は体力や病気への抵抗力などをあらわす漢方独自のものさしで、「実証」と「虚証」があります。同じ漢方薬でも証に合った処方でないと逆効果になることもあります。「実証」はがっちりタイプで、血行が良くて筋肉質な方、「虚証」はやせ型で声が小さく、疲れやすい方を示します。

ストレスで不調をきたした方には、この「気・血・水」や「証」から処方を探っていきます。例えば気が逆流する「気逆(きぎゃく)」の状態で、のぼせや不安感、頭痛などの症状があるときは、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)といった漢方を使いますね。また「気鬱(きうつ)」で気が滞ってしまい憂鬱や頭の重さ、不眠などの症状が見られた時には、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)香蘇散(こうそさん)などを使います。そして「気虚(ききょ)」になると、生命エネルギーが低下し、食欲低下や疲れやすさ、抑うつ感などが見られます。こういった方は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)六君子湯(りっくんしとう)といった補剤を用います。漢方薬で胃腸を整え、血液の流れを良くすることで、栄養が体に行き渡り効果を発揮します。

仕事や育児などをしていれば、ストレスからくる不調に悩まされることもあるでしょう。漢方を利用し、普段から必要な栄養をしっかり摂って、心と体のレジリエンスを高めてほしいですね。

Cross talk/Q&A『眠れない夜にさよなら 脳から考える安眠メソッド』

第3部では、セミナー参加者の皆さんから寄せられた質問に、細田先生と姫野先生にお答えいただきました。当日の質疑のなかから、良質な眠りのためにできるセルフケア、漢方に関する基本についてピックアップしてご紹介します。

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良質な睡眠を得るためのセルフケアについてアドバイスを教えてください

細田:スマートフォンなどから出るブルーライトは脳を興奮させてしまいます。就寝前には触れないようにしましょう。またアメリカの認知行動療法では、就寝から30分経っても眠れない時はいったんベッドから起き上がり、それほど明るくない所でつまらない書物を読みましょうと言われています。「眠れない」ことをストレスにしないことも大切です。

姫野:入浴でいえば、シャワーですませずにぜひ湯船に浸かってほしいですね。また、入るタイミングが重要。お風呂で温まってすぐに寝る方が多いと思いますが、寝る直前の入浴は交感神経が緊張して寝付きにくくなっています。できれば就寝1時間位前にお風呂に入って、体温が下がった頃に寝付くと良いでしょう。

漢方は自分の体質に合うかどうか、長く飲み続ける必要があると聞きました。どの位の期間で判断するのでしょうか?

姫野:漢方には速効性のあるものも、じわじわ効くものもあります。例えば葛根湯(かっこんとう)は風邪の時にすぐに効果が出ます。ゆっくり効いていくタイプは2週間をめどに、飲めるかどうか、効果があるかどうかを判断します。薬と合う、合わないって重要なんですよ。

更年期をやわらげる漢方薬があれば具体的に教えてください。

姫野:更年期の症状はさまざまで、特に私は「証」によって処方を考えます。更年期でいえば、実証・虚証の中間くらいの方は、加味逍遙散(かみしょうようさん)がホットフラッシュやのぼせ、発汗などに効果が出ます。気分の落ち込みなどがあるようなら、加味逍遙散に加えて女神散(にょしんさん)などがいいでしょう。また実証の方で、のぼせや動悸、頭が重いなどの症状がある方には、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)も処方します。虚証の方でめまいや冷え、むくみなどの症状がある方には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を処方します。クリニック、あるいは医療機関に行って、ドクターと相談しながら選ぶと確実です。

仕事の関係で辛いことがあった時、喉がつかえる感覚を覚えます。耳鼻科で検査をしても異常はなく、ストレスが原因ではないかと言われました。予防策や対処法があれば教えてください。

姫野:咽喉頭異常感症といって、喉のあたりに気がうっ滞する症状が出ることがあります。半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)などの半夏という生薬を含む気剤を使うとスっと下がってきたりと、速効性があります。また。鉄が足りないと粘膜形成が悪くなり、それがつかえ感になりますし、ストレスで鉄も消費が進みます。鉄分の入った食材を摂り、半夏厚朴湯を飲むと予防的にもよいと思います。

細田先生、姫野先生から伺ったストレスへの対処法を活かせば、毎日をより明るく、生き生きと過ごしていけるでしょう。食事や睡眠、入浴などの上手なセルフケアと漢方によって、自らのレジリエンスを高めてみてください。


ライブ配信されたセミナーの内容をダイジェスト動画でご紹介します。

漢方×ストレスケア しなやかなレジリエンス(回復力)を身につける

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Mar 18 2022

漢方ビュー事務局

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