先生のプロフィール

東北大学病院漢方内科 准教授 芝大門いまづクリニック院長 今津 嘉宏 先生

1982年 藤田保健衛生大学医学部
1988年 慶應義塾大学医学部 外科学教室 助手
1989年 国保 南多摩病院 外科 医員
1990年 国立 霞ヶ浦病院 外科 医員
1991年 慶應義塾大学医学部 外科学教室 助手
1994年 恩賜財団東京都済生会中央病院 外科医員・副医長
2009年 慶應義塾大学医学部 漢方医学センター 助教
2009年 WHO intern
2011年 麻布ミューズクリニック 院長
2011年 北里大学薬学部 非常勤講師
2013〜2015年 慶應義塾大学薬学部 非常勤講師
2013〜2015年 北里大学薬学部 非常勤教員
2014年〜現在 芝大門 いまづクリニック 院長

今津 嘉宏 先生

がん医療と漢方

漢方医学の役割

がん治療は、①抗がん剤による薬物治療、②手術、③ 放射線治療、の3つの「西洋医学」が治療の柱です。
最近では、「漢方医学」を西洋医学と一緒に取りいれることで、患者さんのQOL(生活の質)を考えた、よりよいがん治療ができるようになってきました。近年、がん治療に、漢方薬の効果が科学的に検証され、多くの結果が報告されています。

漢方薬が「がん治療」に役立つこと

これまで、がん治療では、がんを治すことだけに目が向けられてきました。
しかし、最近は、がん治療にともなう苦痛をとることに、注目がされています。
治療で低下する患者さんのQOL(生活の質)を維持・向上するため、心身の状態や気力の充実など「全人的」な医療が大切になってきます。
漢方医学には、ココロとカラダは一体と考える「心身一如(しんしんいちにょ)という考え方があり、全人的な医療を実践しています。
漢方薬は、抗がん剤の副作用、手術や放射線治療の合併症、がんの進行による心身の苦痛を和らげる手段などに、たいへん期待されています。

漢方薬が「がん治療」に役立つこと

緩和ケアと漢方薬

緩和ケアとは

「緩和ケア」とは、「がんに伴う心身の苦痛を和らげて、患者さんを身体的、精神的、社会的に支えていく医療」です。
がんになると、がんや治療によって、①痛みや睡眠障害など「カラダの苦痛」が出てきます。また、②がんにかかった「精神的な苦痛」、③会社を休職、経済的負担などの「社会的苦痛」、④生きる意味や価値を見失う「スピリチュアルペイン」など、が生じます。緩和ケアは、がん患者さんのQOLを維持・向上し、自分らしく日々を過ごすために欠かせない「支える医療」です。

緩和ケアとは

緩和ケアで行われる医療

緩和ケアは、4つの苦痛( ①カラダの苦痛 ②精神的な苦痛 ③社会的苦痛 ④スピリチュアルペイン )に対し、薬物療法、理学療法、心理学療法など、が行われます。
そして、漢方医学も、重要な治療法となります。
漢方医学は、ココロとカラダのバランスを整えることで、病気や症状を改善します。
ひとつの漢方薬で、西洋医学の治療だけではむずかしいさまざまな症状に、効果が期待できます。
漢方薬の活躍の場は、たいへん広いものです。
まさに、患者さんの全身的な苦痛をとりのぞき、全身状態を向上させる緩和ケアに適した医療、といえます。

緩和ケアに使われる漢方薬の一例

※漢方薬だけですべての症状を治療するわけではありません。
症状 漢方処方
倦怠感 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)
食欲不振 六君子湯(りっくんしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
嘔気・嘔吐、胸やけ 六君子湯(りっくんしとう)、茯苓飲(ぶくりょういん)
腹部膨満感 大建中湯(だいけんちゅうとう)
疼痛 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):しびれ、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう):筋肉のけいれん
神経症(不眠、不安) 抑肝散(よくかんさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

抗がん剤の副作用と漢方薬

抗がん剤の副作用に役立つ漢方薬

抗がん剤を使ったことのある約9割の患者さんは、「倦怠感・疲れ」「食欲不振」「吐き気・おう吐」などの副作用を経験しています。しかし、その副作用を和らげるために、薬を処方された患者さんは、全体の半分にすぎません。
抗がん剤は、がん細胞だけでなく、骨髄、白血球、胃腸の粘膜など、細胞分裂の盛んな細胞にも、ダメージをあたえます。そのため、免疫力の低下、白血球や血小板の減少、貧血、食欲低下、下痢、吐き気、脱毛などの副作用が、患者さんを苦しめます。これらの抗がん剤の副作用に、漢方薬が、積極的に使われています。
薬物治療で最も大切なことは、定められた抗がん剤の量を、副作用などで中断することなく、決められた期間続けることです。
そのためにも副作用対策は大切です。漢方薬は、がん治療に大きく貢献しています。

抗がん剤の副作用の緩和に使用されている漢方薬の一例

※漢方薬だけですべての症状を治療するわけではありません。
症状 漢方処方
末梢神経障害 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):しびれ、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう):筋肉のけいれん
食欲不振、上腹部不定愁訴 六君子湯(りっくんしとう)
下痢、口内炎 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
体力低下、疲労倦怠 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
漢方薬が「がん治療」に役立つこと

外科手術・放射線治療と漢方薬

抗がん剤の副作用だけでなく、手術や放射線治療の合併症に、漢方薬はよく使われています。
なかでも、開腹手術後におこる腸閉塞(手術後に腸の動きが悪くなり、内容物がとどこおる状態、イレウスともいう)に伴う腹部膨満感への、漢方薬の効果は広く知られています。
近年では、米国でその効果を科学的に検証する臨床試験が、始まっています。

舌がん、喉頭がん、食道がん、前立腺がんなどに放射線治療が行われます。
この放射線治療による皮膚の症状、口内炎などの合併症にも、漢方薬が使われています。

外科手術・放射線治療と漢方薬

監修 / 今津嘉宏(芝大門いまづクリニック)

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