先生のプロフィール

藤沢女性のクリニック もんま 院長 門間 美佳 先生

女子学院高校、山梨医科大学医学部卒業。国保旭中央病院、湘南鎌倉総合病院、湘南藤沢徳洲会病院、女性医療クリニック元町LUNA、湘南記念病院を経て、2019年藤沢女性のクリニックもんまを開設。第1土曜日14~17時にオープンユースクリニックを行っています。

若い頃は目の前のことで精いっぱいで、将来のことまで考える余裕はないという女性も多いでしょう。しかし、月経(生理)不順など女性特有の不調をそのまま放置して、いざ妊娠したいと思った時に、妊娠が難しい体になっていた、というケースも少なくありません。そこで注目されているのが、将来の妊娠に向け、健康な心と体を保つ「プレコンセプションケア」。
プレコンセプションケアに漢方を取り入れている、婦人科医の門間美佳先生にお話を伺いました。

月経痛で苦しんでいる人をなんとかしたい

門間先生はなぜ婦人科医になろうと思われたのでしょうか。

私は月経痛がとても重かったんですね。中高時代は通学の電車の中で真っ青になって倒れて、駅の事務室で休ませてもらったり…。

自分が月経痛で大変だったので、月経痛で苦しんでいる人をなんとかしたいとずっと思ってきました。ほかにもお産が魅力的だとかいろいろな理由があって選びましたが、身をもって婦人科の大切さを感じていたことは大きかったですね。

漢方との出会いを教えてください。

月経痛のつらさをやわらげるため、10代から当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を飲んでいました。
医学部の学生だったときは、富山医科薬科大学に1カ月ほど漢方の勉強に行くなど関心はありましたが、系統立てて勉強しようとは思いませんでした。
漢方のすごさを実感したのは、医師になってからです。婦人科は不定愁訴が多いので、西洋薬だけでは解決が難しいんですね。漢方薬を使ってみると、患者さんから「楽になりました」「調子がいいです」という反応が返ってくる。患者さんを通して効果を実感しました。
3年前に開業してからは、多種多様な漢方薬を使っています。

どのような漢方薬を処方していますか。

研修医の時は婦人科三大処方といわれる当帰芍薬散、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が中心でしたが、徐々に使う種類が増えました。

瞼がピクピクして、手や舌も小刻みに震えていて、とても緊張が強い──、こうした交感神経が緊張している方に抑肝散(よくかんさん)や抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、加味逍遙散のような穏やかになる薬をお出しします。
胃腸が弱い人には六君子湯(りっくんしとう)、産後の不調や疲れて気分が落ち込んでいる方には十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、低気圧の頭痛やピル服用の初期のむくみに五苓散(ごれいさん)、習慣性片頭痛に呉茱萸湯(ごしゅゆとう)を使っています。
また、PMS(月経前症候群)で理由もなく涙が出てしまう、甘いものを強く欲してコンビニスイーツを買い占めてしまうという方には甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)をよく処方します。
冷えが強い方には、9月から3月くらいまで人参養栄湯を飲んでもらいつつ、寒い時期は当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を処方するという方法をとることもあります。

漢方の良さは、どのようなところだと思いますか。

西洋医学的な治療一辺倒だと、その治療ができない、あるいは効かなかった、という時に、次に打つ手がなくなってしまいます。つらい状態をより良くできる手は、いっぱいあった方がいい。中でも漢方薬はとても有力な手だと思っています。 また漢方は、個々の患者さんに合う薬を出すために、たくさん問診をする必要があるんですね。冷えるという患者さんには、「どこが冷えるの?」から始まって、いつどんなふうに冷えるのかはもちろんのこと、食事の内容、月経の状態など、いろいろなことを事細かに聞いていく。そうすると患者さんは「この先生は自分にすごい興味を持って、一生懸命治そうとしている」と受け取ってくださる。
患者さんとたくさんやりとりをする中で信頼関係が育まれるというのは、漢方のとても良いところだと思っていますし、私が心がけていることです。

妊娠したくなった時に実現できるように

門間先生は10代20代の患者さんに、「プレコンセプションケア」の大切さを伝えていらっしゃるそうですね。プレコンセプションケアとはどのような概念なのでしょうか。

プレ(pre)は「〜の前の」、コンセプション(conception)は「妊娠」で、プレコンセプションケアは将来の妊娠を考えながら生活や健康に向き合うことを指します。
妊娠が目的と考えられがちですが、「近々妊娠したいと考えている女性だけでなく、思春期以降、妊娠可能な年齢の女性すべてが、健やかな心と体を保ちましょう」ということなんですね。健やかな体を維持していれば、「妊娠したいな」と思ったときに実現できる可能性が高まりますから。

どのようなことに気をつければいいのでしょうか。

基本は、「しっかり食べて、しっかり眠ること」、「体を冷やさないようにすること」。
女性は月経でどんどん鉄分が失われていくので、貧血が進んでPMS(月経前症候群)やうつがひどくなることもある。食事にはより気をつけなければならないのに、きちんと食べていない方がとても多いです。
貧血を改善するために鉄剤を処方しても、胃腸の調子が整わずに飲めないということもあります。そんな時に、六君子湯や人参養栄湯(にんじんようえいとう)を処方することで、貧血が改善しやすくなることも経験しています。
栄養や睡眠が足りていなくて、月経が来なくなるケースも少なくありません。
中高生の頃は将来の妊娠のことまで考えが及びませんが、月経の不調を放置した結果、月経不順・子宮筋腫や内膜症など、気づいたら妊娠しにくい状態になってしまった、ということもあり得ます。
産むということと直接結び付けず、健康な体であることが大切だと伝えています。
具体的には、鉄分、亜鉛、タンパク質をきちんと摂ること。日付が変わる前に寝ること。最近は冬でもシャワーで済ませてしまう方が多いのですが、「湯船につかって」とお話ししています。

漢方で、健やかな心と体を保つ手助けを

漢方がプレコンセプションケアに貢献できることはありますか。

「食べる、寝る、冷やさない」が基本ですが、それをスムーズにできない時、漢方薬で補助することができます。
たとえば、胃腸が弱くて食が進まないなら六君子湯や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、抑肝散で質の良い睡眠をとることができます。体が冷えているときは、冷え症を改善する当帰芍薬散を処方することもあります。

最近気になっているのは、10代20代の摂食障害がとても増えていること。月経が来なくなったと受診してくる方の中には、明らかに痩せていて、摂食障害、あるいは摂食障害予備軍になっている方がいらっしゃいます。
今までは友だちとの何気ない会話でストレスが発散できていましたが、コロナ禍で人との関わりが減って、ストレスが解消できず、身体に表現されているのかもしれません。

そのような方には、胃腸の調子を回復させるために、亜鉛の胃薬や吸収のよいアミノ酸製剤、漢方薬では六君子湯や補中益気湯を処方することもあります。漢方ができることは少なくないと考えています。

妊娠が気になってくる年齢の方に、漢方薬を使うことはありますか。

月経不順や排卵障害の方によく使うのは、温経湯(うんけいとう)と当帰芍薬散です。

婦人科に対するハードルを下げたい

門間先生は月1回、10代の女性たちにクリニックを無料開放しているそうですね。

10代の多くが「婦人科は何をされるかわからない。」、「どんな時に婦人科に行ったらいいのかわからない。」と、ハードルが高くなっているんですね。
そこでクリニックが休みの第一土曜日の午後に、自由に院内を見てもらう機会を設けました。これが「オープンユースクリニック」です。とくに目的なく来てもらって、「婦人科はこんな雰囲気」「こういうスタッフがいます」「内診台はこんな感じ、でも中高生には内診はしません」――。そんなことが伝われば、彼女たちの婦人科に対するハードルが少し下がるんじゃないかな。

「困ったら婦人科に」と言ったところで、若いときは困っていることになかなか気づけないし、悩みを言葉にできないことも少なくありません。困ったときに安心して相談できる場所があることを、「困る前に」知ってもらえたらと思っています。

最後に漢方ビューの読者にメッセージをいただけますか。

20代から40代は仕事や家事、育児などやることがいっぱいあって、自分のことはおろそかになりがちです。「寝る」と「食べる」という基本的なことをおろそかにしないで過ごしてほしい。落ち込んだり、うつっぽかったりするときは、たいてい忙しくて食べられなかったり、睡眠が足りていないなど、基本的なことが抜けています。
また、ストレスや疲れがたまると、月経が乱れたり、おりものも量が増えるなど、女性の体はさまざまなサインを発してくれます。しかし自分の体に無頓着だと、せっかくのサインに気づくことができません。自分の体をいたわり、変化に敏感になっていただきたいと思います。

※ 掲載内容は、2022年9月取材時のものです。

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