皮膚は体の不調を映し出す鏡
体の内外から総合的にケアする漢方の力先生のプロフィール
野本真由美クリニック銀座 院長 野本 真由美 先生1998年信州大学医学部卒。新潟大学医学部附属病院を経て米国留学、2007年に野本真由美スキンケアクリニック、18年に野本真由美クリニック銀座開院。日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本東洋医学会認定 漢方専門医。薬学博士。
「いつまでも美しい肌でいたい」。それはすべての人の願いです。野本真由美先生は、最新の美容皮膚科の医師として研究を続けながら、漢方薬を積極的に取り入れ、患者ひとりひとりに最適の治療方法を提案している美容漢方の第一人者です。「内臓の鏡」と言われる皮膚を健やかにするには、体の内外から総合的にケアすることが必要になります。その中で漢方薬が果たす役割について、お話をうかがいました。
薬だけでなく、生活習慣までトータルで指導
- 漢方薬に興味をお持ちになったきっかけを教えてください。
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私は祖母から「般若心経」の教えを受けて育ち、子どもの頃から東洋思想に慣れ親しんでいました。おかげで、東洋医学の「引く美学」、つまり「要らないものを捨ててから補う」という教えに馴染みやすかったのです。
東洋医学は「古い医学」ではありません。「人間にとって、本当に大事なものほど今日まで残っている」と考えるのです。2000年も前から、大事なものだけを引き継いできた経験に基づくこの医学を、日本では保険適用で利用できます。栽培の段階から厳格に生産管理され、便利な粉末になった漢方薬を148種類もの中から選べるなんて、これを使わない手はありません。
- 外来にいらっしゃる患者さんは、どのような悩みを持っている方が多いのですか。
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クリニックで圧倒的に多いのは、「化粧品やスキンケアを選んでほしい」という患者さんです。症状としては、ニキビやシミ、肌荒れ、アトピーといったお悩みで来られます。その多くが、保険診療の薬では改善しないという方々で、スキンケアや化粧品の指導から生活習慣や食事内容までトータルで診て欲しいとおっしゃいます。
漢方薬だけの治療を目的にいらっしゃる患者さんはいませんし、私も漢方薬だけで治そうとは考えていません。漢方薬は、必要とする人に、必要最小限でお出ししています。 生活習慣で大事なのは「食事、睡眠、運動、ご機嫌(心)」の4つ。これらに気をつけ「養生」することが、もう立派な東洋医学です。治療といっても、その半分は養生で、残り半分が患者さんそれぞれに合った薬を選ぶこと。それが漢方薬であることもあれば、スキンケアやメイクを改善するだけであっさり治ってしまい、薬を出さないこともあります。
一剤で複数の症状にアプローチする漢方を生かす
- 皮膚科の診療において、漢方薬はどのように生きてくるのでしょうか。
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漢方では「病気」ではなく、「病気に悩む人」を診ます。特に、皮膚は体の内側のトラブルが現れる臓器です。皮膚の調子は、胃腸の不調やむくみ、生理のトラブルと関係があることも多いです。複数の不調を一つの処方で対応する--これは「異病同治」という考え方で、西洋医学にはありません。ここで漢方薬が生きてきます。漢方薬は一剤に複数の成分が含まれ、一つの処方で複数の症状に効果が期待できるからです。
ただし皮膚は末梢臓器ですので、内臓に異常があれば薬の効果が行き渡りません。例えば胃腸の機能が弱い人は、皮膚を治療するときに、栄養を吸収できる胃腸の状態かどうかを確認します。外来では「どんなものを口にしているか」を問診して、「胃腸に炎症が生じやすいものを通していないか」を血液検査で調べることもあります。皮膚をきれいにするには、血流をすみずみまで流してあげることが大切です。赤ちゃんは頬に赤みがさしていますが、年をとると皮膚のすみずみまで血流が届かなくなり、栄養が届かずに肌がくすんでいきます。女性の骨盤内には腸や膀胱のほかにも子宮や卵巣などの臓器が収まっているので、骨盤内は特に血流が滞りやすい。生理の状態を聞けば、だいたい血流全体の状態が分かりますので、必要があれば血流を良くする漢方薬を処方します。
- 皮膚科では、どのような漢方薬を処方されるのでしょうか。
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例えば、のぼせやイライラが強く、かゆみが悪化したときに黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、口の乾きや皮膚の乾燥が強いときの赤みに白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)といった漢方薬を皮膚科ではよく処方します。これらを選ぶときは胃腸の症状も併せてお聞きして判断しています。
また、皮膚は酸素に触れている臓器であり、毎日サビ(=酸化)と戦っています。塗り薬の刺激が強い時には、抗酸化作用の高い漢方薬を積極的に選んで内側からも改善することを心がけています。
患者さん視点を第一に、皮膚本来の力を引き出す
- 患者さんと接する際に、どのようなことに気をつけていますか?
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意識しているのは、「医師がしたい治療ではなく、患者さんが喜ぶ治療をする」ことです。患者さんそれぞれに価値観があるので、たとえば漢方が苦手だと言う人には漢方を出しませんし、治りが遅いから効き目の強い薬を出すということも、人によってはしていません。
皮膚は本来、自分で良くなります。私はそれを妨げているものを見つける。それが一番大切な仕事だと思います。私が治しているのではなく、皮膚は自分で治る力を持っているのです。
- 「漢方ビュー」の読者へメッセージをお願いします。
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人間は自然の一部です。梅雨の時期に頭が重くなるのも、気持ちが沈むのも、自分が自然の一部だから。それを受け入れて、「私の肌は季節で揺らぐ」「こういう食べ物を取ると状態が悪くなる」という風に、自分でケアするべき不調の原因を見つけることができるようになればいいですね。
肌は目に見える臓器です。自分の行動や毎日の習慣で、心や体が変化していることに気づいて、10年後、20年後も美しい肌でいられるといいなあと思います。
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私のクリニックに来る患者さんは、「頭痛があってもカバンに漢方薬があると思えば安心できます。私にとってはお守りのように心強い存在です」とおっしゃいます。必要な処方をしたら、あとは患者さん自身が養生でケアをする。何年か経って、「漢方薬がなくても、大丈夫です」と患者さんに言っていただけるようになることが理想です。
※ 掲載内容は、2021年7月取材時のものです。