先生のプロフィール

医療法人マリイズ診療所 院長 鵜飼 恭子 先生

京都府立医科大学卒。京都府立医科大学附属病院、済生会滋賀県病院、近江八幡市立総合医療センター、第二岡本総合病院、脇坂クリニックでの勤務、みい診療所、保険生協皮膚科診療所、野田クリニック、工場保険会での非常勤を経て、2018年さんじょう恭子診療所を開設。2023年改称。

日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
日本東洋医学会認定 漢方専門医
日本美容皮膚科学会会員

鵜飼 恭子 先生

京都の町の中心にある診療所で、皮膚科医、そして漢方医として日々診察している鵜飼恭子先生。たくさんの花が飾られ、カフェのような音楽が流れてくる待合室は、「少しでも居心地よく」という鵜飼先生のこだわり。診察は皮膚の問題に限らず、会話から出てくる患者さんの小さな困りごとを見つけたり、必要に応じて漢方薬を処方します。
生活の質(QOL)を豊かに――。鵜飼先生が目指すのはそんな医療です。

コロナ禍の「マスクかぶれ」、塗り薬で治療

鵜飼 恭子 先生

実を言うと、最初は産婦人科医を目指していたんです。それは〝同性(女性)の患者さんの役に立ちたい〟と思っていたからです。
ところが、医学部6年生の最後に行った実習先の病院で忘れられない光景を目にしました。皮膚科の先生が、患者さんの病気をその場で見事に診断して、治していったんです。学生だった私には、それが魔法のようでとても魅力的に映りました。
それで、私も一瞬で、皮膚科医になることを決めました。
それから20年ぐらい経っていますが、その先生には今もお世話になっていて、困った患者さんがいるときなど、いろいろと相談させてもらっています。

コロナ禍ということもあり、〝マスクかぶれ〟で受診される方が増えています。
ニキビができたり、赤くなったり、かゆかったり…。その場合は主に塗り薬を処方しますが、マスクかぶれだと思っていたら、じつは原因が違っていた、ということも少なくありません。疲れや生理周期によるものなどです。
ニキビも、かぶれも、やっぱり悪化したら治るまで時間がかかりますし、跡が残ることもあります。だから、「これくらいのことで医師に診てもらうのは…」などと考えず、気になる症状があったら遠慮せず医療機関を受診してほしいですね。

マスクかぶれもそうですが、当院では塗り薬――具体的にはステロイドの外用剤をよく処方します。日々の診療で私が心がけているのは、〝適量の塗り方をなるべく細かく説明すること〟です。
じつは、多くの患者さんが〝適量より少ない量〟を使っています。おそらくどのように使ったらいいのか分からないのではないかと思うのですが、塗る量が適切でないと病気は良くなりません。病気の種類にもよりますが、しっかり適量を使っていただくと、急性のものであればだいたい1週間ぐらいで改善されることがほとんどです。反対に、だらだらと使い続けてしまうとよくならないだけでなく、副作用が出てしまうこともあります。もともと体で作られているものですから、上手に使いこなすと味方になってくれる薬だと考えています。

皮膚病プラスアルファの症状を漢方で

鵜飼 恭子 先生

当院では、アトピー性皮膚炎やニキビ、じんましんなどの患者さんが多いです。

診察では患者さんのご希望を伺いながら、外用剤や塗り薬、抗アレルギー剤などを中心にし、漢方薬を併用しています。なかには、漢方薬だけで十分対応できることもあります。具体的には、「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」や「清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)」、「排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)」などをよく使います。

いずれにしても、漢方薬、西洋薬に関わらず、薬の特性をよく見極めてカラダへの影響が少なく、効果が高い治療法を選んでいます。例えば、皮膚科では抗菌薬を使うケースがよくありますが、抗菌薬は耐性菌だったりすると効かないこともあり、お腹を壊してしまうなど体調が悪くなる方もいらっしゃいます。症状によっては、抗菌薬を使わずに漢方薬で十分に対応できるケースがあります。その場合は、漢方薬を積極的に使うようにしています。

また、当院は皮膚科のほかに漢方内科も標榜しているので、「漢方薬でよくなりますか」と言って足を運んでくださる患者さんも多いです。皮膚の病気を診ている患者さんにも、雑談のなかで、それだったら漢方飲んでみない?とおすすめすることもあります。

先日も、皮膚の病気で通院されている患者さんを診察すると、どうも「水毒(すいどく)※」がありそうな感じがしたので、「お天気頭痛ありますよね?」と聞いたら、「なんでわかるんですか!」って驚かれていました。結局、この患者さんには「五苓散(ごれいさん)」を処方しました。漢方薬は皮膚の症状ではない、プラスアルファの症状に対応できるので、とても重宝しています。

※「水毒」…漢方の見立てのひとつ。水分代謝や免疫のシステムなどが低下し、カラダがむくんだ状態。

日々どんな漢方薬を処方しているか、少し具体的な話をします。 当院でよく診る症状は、ニキビ、肩こり、冷え、むくみなどです。症状が複数にわたる人には、どれが一番つらいかを聞いて、まずはその症状を軽くするための治療を行います。 よく処方する漢方薬は、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」、「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」、「桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)」、「五苓散」です。
症状や体質はもちろん、季節によっても処方を変えるときがあります。例えば、冷え症に当帰芍薬散を用いることがありますが、寒い季節になると追いつかなくなる。そこで、より強い冷えを改善する当帰四逆加呉茱萸生姜湯に変えるという具合です。

そうそう、症状といえば〝疲れ〟も忘れてはいけません。実際、疲れを訴える若い方が圧倒的に多く、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」や「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」といった補剤(カラダのエネルギーを補う役割)をよく用います。
20代で補剤?って思うかもしれませんが、今の若い人たちって、本当に頑張りすぎで、カラダもココロも疲弊しています。ですから、エネルギーである気を補う補中益気湯をベースとして、目の下にクマができているなど「血(けつ)※」の不足がある人には、血を補う十全大補湯に変えるなどして、よく処方しています。

※「血」…漢方の不調を測るものさし「気・血・水(き・けつ・すい)」という概念のひとつ。「血」は血液とその働き。

以前も、多忙な販売業をされている40代の女性が、「疲れもつらいけれど、人前に出る仕事なので目のクマを何とかしたい。いろいろ美容を試したけれどダメだった」と言って来られました。顔を拝見すると、目の下のクマが確かに目立ちます。
結局、この方にも状態に合う漢方薬を処方したところ、徐々に疲労の症状も改善されるとともに、目の下のクマも目立たなくなっていきました。

今でこそ漢方薬をよく使っていますが、じつを言うと、昔は「漢方ってややこしそう」って思っていました。〝証(しょう)※〟なんて意味がわからないし、薬の名前も漢字だらけで呪文のようだし、種類も100個以上ある。西洋医学を学んだ人間からすると、本当に〝意味不明で不可解なもの〟というイメージでした。その一方で、ヨガを習っていて、インドの医学には興味があったので、そちらを勉強してみたいと考えていました。
そこで、学生時代からお世話になっていたアロマや漢方に詳しい教授に相談すると、「まずは漢方の専門医をとりなさい」と。「ええーっ」って思いましたが、ちょうど内科医である親友も漢方を学びたいと言っていたので、一緒に漢方専門医を目指して研修に参加させてもらうことにしました。

※「証」…体力、病気に対する抵抗力のものさし。その人の状態(体質・体力・抵抗力・症状の現れ方などの個人差)をあらわす。

漢方の専門医の資格をとるには、3年以上の研修や、たくさんの症例レポートなど、たくさんのハードルがあり、経験をつむ必要があります。それで漢方薬を処方する機会がおのずと増えていったのですが、そのなかには漢方で劇的に症状がよくなる方がいました。
例えば、慢性頭痛があった80歳の女性。脳外科に通院してずっと痛み止めを飲んでいたのですが、薬疹(薬によるアレルギー反応)が出てしまい、薬が飲めなくなってしまった。薬疹の治療のため受診されたのですが、お話を聞いていると漢方が合うかもしれないと思い、試してもらうと、頭痛が改善したんです。
このほかにも、漢方薬で症状が改善されたケースをたくさん経験しました。師のアドバイスで最初は自分が漢方を専門にするとは思ってもいなかったのですが、今は漢方に出会えて本当によかったと思っています。

地域医療の架け橋となる〝町医者〟でありたい

鵜飼 恭子 先生

診療所を開業してから4年半経ちます。おかげさまで、京都市内だけでなく、大阪の北の方や綾部市からも患者さんが来てくれます。男女比でいうと、女性が多いです。
漢方を学んでからは、皮膚を診るだけではなく、全体の雰囲気とか――それが証ということなのかもしれませんが、西洋医学的な診察をしていても漢方的な診方をどこか取り入れています。まさに、最初にお話しした患者さんのような感じですね。

皮膚の病気で漢方薬を処方したら、便通まで良くなったという人など思いもよらない別の症状まで良くなる人もいて、症状だけでなく体調が徐々にととのってくる方も多くいらっしゃいます。
一方で、西洋医学的な視点も大事にしています。

これもある患者さんの話ですが、「のどのあたりに違和感がある」といって漢方薬を希望されました。咽中炙臠(いんちゅうしゃれん:のどのつかえ感がある)という状態だったので、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」を処方しましたが、「漢方薬で治すのもいいけど、大きな病気が隠れていることもあるから、ちゃんと消化器科の先生にも相談してね」と近くの内視鏡を専門としているクリニックを紹介しました。その後、そのクリニックの先生から「早期の食道がんが見つかった」と連絡がありました。
漢方だけで治療したいという方もいますが、それだけでは不十分なこともありますし、西洋医学に漢方を追加すればよりスムーズに症状が緩和されることもあります。〝町医者〟として両方を上手に用いながら、ときに医療の橋渡しの役目をしつつ、患者さんを診ていくことが大事だと思っています。

漢方ビュー読者へ。「漢方との付き合い方」

漢方でみる不調も、皮膚の病気も似ているところがあります。それは、〝体質やライフスタイルがその症状の背景にあることが多い〟という点です。でも、私は「習慣を変えましょう」とか「生活を改めましょう」とか強く言うことはあまりありません。自分自身を振り返っても、忙しい日々の中で習慣を変えるのは難しい。
一方で、漢方をきっかけに自分のカラダに向き合ってくれればいいな、とは思っています。漢方薬を飲んでラクになったら漢方をやめる。つらくなったらまた相談に来る。そうやって自分の不調と付き合っていくことも大切だと考えています。

医療は時間ぴったりにおひとりおひとりを診察することは難しく、どうしても待ち時間が出ることも多いです。昔から習っているフラワーアレンジメントの先生にお願いして、お花の雰囲気をたくさん感じられるインテリアをアレンジしてもらいました。待ち時間を少しでもゆったりと過ごしてもらえたらと思います。方法は違いますが、日常の質を豊かにするという意味においては、お花の先生は同じ方向を見つめ、相談に乗ってもらっている頼れる師匠のような存在です。

漢方も、生活の質を豊かにする手段のひとつです。
興味があるけど、病院に行くほどではないかなと思っているのであれば、ドラッグストアや薬局にある漢方薬から試してみるのもよいと思います。それで、興味を持ったら診療所を訪ねてみてください。
診察室で、「私の不調にあう漢方薬はありますか?」って聞いてくれる患者さんに、私はベストを尽くしたいと思います。コミュニケーションをとりながら、その人に合った漢方薬を選んでいく診察は、私にとってもとても楽しいものです。

鵜飼 恭子 先生

※掲載内容は、2022年11月取材時のものです。

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