漢方ビュー通信

月経前にイライラが爆発──、これって「PMDD」かも?

月経前に生じる著しいメンタルの不調

月経のある年代の女性の多くが経験する、月経前のココロとカラダの不調。
これを「月経前症候群(PMS)」といいますが、このなかでとくに抑うつや不安、焦燥感などのメンタルの症状が強く現れて、日常生活や人間関係に支障が生じるような状態を、最近では「月経前不快気分障害(PMDD)」と呼ぶようになっています。

そこで今回は、この月経前不快気分障害(PMDD)について解説します。

攻撃的になって身近な人に手を上げることも

PMDDは、PMSの中でも特にメンタル系の症状が強く現れた状態をいいます。
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5:精神障害の診断と統計マニュアル)では、ほとんどの月経周期において、「著しい情緒不安定(突然悲しくなる、泣きたくなるなど)、著しいイライラ・怒り・対人関係のトラブル、著しい不安・緊張」や、「興味の減退、集中困難、倦怠感、食欲の変化(過食や特定の食物への渇望)、過眠または不眠、コントロールができなくなる、身体症状」がある場合をPMDDとしています。

有病率は欧米では2~4%、わが国でも1.2%とされ、思春期での割合が高い傾向にあります。
PMDDの特徴は、なんといっても急に怒りやイライラの感情が湧き上がって、自分ではコントロール不能になってしまうという点。
「イライラして人に対して攻撃的になり、実際に身近な人に手を上げたり、ものを投げたりしてしまう」ことから、離婚や友人関係の崩壊などの問題も報告されています。

月経が始まると元の精神状態に落ち着くため、当人も「なぜあんなことをしてしまったのだろう」と後悔にさいなまれることも、少なくないようです。

なぜ起こるのか。ストレスが背景にある報告も

PMDDもPMSと同じく、女性ホルモンのひとつ「黄体ホルモン(プロゲステロン)」の分泌が増える黄体期に起こり、月経が始まるとすみやかに症状が軽くなります(人によっては、月経が始まっても1週間ほど症状が続くこともあるようです)。

このことから女性ホルモンが何かしら関与している可能性はありますが、PMDDの原因はいまだよくわかっておらず、ストレスや生活環境の負荷などが背景にあるという報告もあります。
いずれにせよ、PMDDをそのまま放置している限り、本人も、周りもつらいだけです。
「たかが月経時のトラブル」と捉えず、しっかりと対策を考えたほうがいいかもしれません。

PMDDの治療。漢方が有効なことも

漢方の考え方

PMDDの治療は、欧米においては抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第一選択になっています。その際、薬を飲み続けるのではなく、月経周期に合わせて服用するという方法をとることがあります。
また、女性ホルモン薬のなかにも、PMDDに対して効果がみられるものがあるという報告があります。そして、カラダに症状が現れたときには、痛み止めなどが対症療法として用いられます。

次に、もともと婦人科系の病気や不調に強いとされている漢方薬ですが、PMDDでもひとつの選択肢となっています。
漢方の考え方でPMDDは、「(生命エネルギーのようなもの)」が滞る気滞(きたい)」という病態が背景にあると考えられているため、気をスムーズに流すとされる漢方薬が使われます。
症状が収まるまでずっと飲み続けるケースもありますが、月経の前だけ限定的に使うこともあるようです。

心理療法としてはカウンセリングなども行われています。
こうした治療と併せて、規則正しい生活をする、睡眠をしっかりとる、栄養バランスのよい食事を心がける、自分なりのストレス解消法を見つけるといったことも大切です。

ご存じですか?

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師が漢方独自の診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

参考

産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2020
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf

PMS,PMDDの診断と治療 昭和学士会誌 第77巻 第4号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/77/4/77_360/_pdf/-char/ja

漢方スクエア Vol.16 No.13 通巻339号 「つらいPMSを漢方で乗り切る」

こちらも参考に!

漢方に詳しい病院・医師検索サイト紹介
https://www.kampo-view.com/search.html

Jun 30 2021

医療ライター・山内

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