家族が認知症に…そんなときに知りたい漢方の知識
2025年には「5~6人に1人が認知症」と推計
高齢化がどんどん進むにともなって、認知症患者の数も増えています。
内閣府の『高齢社会白書』によると、2022年10月1日現在の65歳以上人口は、3,624 万人で、高齢化率はなんと29.0%に。
『日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究』では、2012年の認知症有病率から2025年の認知症有病率を推計していますが、なんと675万人(約19%)にものぼるとされています。「5~6人に1人が認知症」という社会が待ち受けているのです。
そんな背景もあって、世界では認知症対策が喫緊の課題に。認知症の病態とされるアミロイドベータの蓄積に作用する薬などが相次いで開発され、臨床試験が行われています。
しかし、「認知症を治す」というところまでは至ってはいません。
一方で、家族が大変だと感じる「認知症の周辺症状」については、かなり対策が進んできています。
本人や家族のQOLの低下につながる「BPSD」
改めて説明すると、認知症の症状には大きく「中核症状」と「周辺症状」があります。
脳の障害によって起こる記憶障害や理解・判断力の低下などが中核症状、本人がもともと持っている性格や人間関係などが関係して生じる、うつ状態や妄想、攻撃性などの問題を周辺症状といいます。
周辺症状は、最近では「行動・心理症状(BPSD)」と呼ぶようになっています。
BPSDが強く出ると、認知症当事者の感情のコントロールがきかなくなるため、介護が大変となり、本人はもとより家族のQOL(生活の質)も大きく落としてしまいます。
認知症はまだ先…でも介護する側になることも
認知症はまだ先の話…と思っている人も多いでしょう。
しかし、大切な家族が認知症になった場合、多かれ少なかれ「介護」が必要になり、その役割を担う場合も出てくるかもしれません。それは決して先の話ではない、ということです。
そして、そのときに慌てないよう、正しい知識を持つことが大事になります。
BPSDは、認知機能の低下によって起こる本人の「こうしたい」という希望や、「こんなはずじゃなかった」という苛立ちと、周りの理解や対応が一致しないことで生じると考えられています。
見方を変えると、環境を改善したり、適切にケアをしたりすることで、そのズレを減らすことができ、それがBPSD対策としては重要だと考えられています。
そのためのケアの方法としては、「パーソン・センタード・ケア」※や「回想療法」、「音楽療法」などが知られています。気になる方は、このワードで検索してみてください。
※「認知症フォーラムドットコム」でも解説しています。
BPSDには漢方薬「抑肝散」が有用でよく使われる
薬物療法としては、抗不安薬や睡眠導入薬などが使われますが、薬の調整がむずかしいこともあって、慎重な使い方が必要になります。
一方、BPSDに有用な漢方薬もあり、多くの医療現場で使われています。
なかでも「抑肝散(よくかんさん)」は最もよく使われている処方で、臨床試験などでも有効性が報告されています。
抑肝散は、子どもの夜泣き、疳(かん)の虫などに使われていて、その名の通り「肝」を「抑える」働きがあります。認知症では、怒りやすい、イライラする…といった症状に効果があるとされています。
このほかにも、抑肝散と同じような症状で、抑肝散より体力が低下し胃腸虚弱の人向けには「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」という漢方薬も用いられているようです。
認知症になった大切な家族が穏やかに過ごせるよう、もしBPSD(行動・心理症状)に悩んでいるようなら、一度、かかりつけ医やケアマネジャーなどに相談してみてはいかがでしょうか。
参照
高齢社会白書
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s3s_01-1.pdf
内閣府 認知症年齢別有病率の推移等について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/yusikisha_dai2/siryou1.pdf
厚生労働省 認知症を理解する
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/19.html
かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000036k0c-att/2r98520000036k1t.pdf
ご存じですか?
医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師が漢方独自の診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)
こちらも参考に!
漢方に詳しい病院・医師検索サイト紹介
https://www.kampo-view.com/clinic医療ライター・山内