漢方ビュー通信

心が“バテる”前に、試してほしい対策とは

集中力が続かない…気分が落ち込みやすい…怒りっぽい…など、心の状態が制御できなくなった経験は多くの人にあるかと思います。気力だけでは解決できず、うまくコントロールできずに他人に偏見を持たれたりすることもあるかもしれません。

じつは、このときの脳は、メチレーション(メチル化反応:メチル基といわれる分子を結合する代謝)にコントロールされていると考えられています。このメチレーションが緩慢になると、疲労感が生じ、メンタルが弱まり、また精神疾患を引き起こす可能性があります。さらに、さまざまな障害が生じ、性格にも影響を及ぼすことがあるとされています。

そこで今回は、薬剤師である筆者が、心のケアについて解説します。

メチレーションとは、心とカラダの健康に必要な代謝

脳の神経細胞は、シナプスと呼ばれる隙間を介して神経伝達物質を使って情報を伝達します。これにより、感情が生じ、行動の原動力を得ます。
神経伝達物質には、幸せホルモンとして有名なセロトニンやドーパミン、ノルエピネフリン、グルタミン酸、GABA(ガンマ-アミノ酪酸)などがありますが、これらを代謝するときに足りない栄養素や阻害する物質などが存在することで、心の不調や感情に影響が出ます。この代謝のことをメチレーションといいます。

メチレーションによって合成される物質として、アセチルコリン、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、メラトニン、Lカルニチンなど、多くの重要な物質が挙げられますが、そのおかげで、私たちの心とカラダは健康を維持できているのです。

脳が正常に働くために必要な2つのこと

心とカラダの健康には、脳が正常に働いていることが重要です。そのために必要なこととして、脳の神経伝達物質の代謝に必要な栄養素に過不足がないこと、そして、心の状態に関わるシナプスでのメチレーションが適正に行われることがあります。それぞれ詳しく解説します。

(1)脳の神経伝達物質の代謝に必要な栄養素に過不足がないこと

アミノ酸から神経伝達物質を作る際には、ビタミンB6や亜鉛、SAMe(Sアデノシルメチオニン)、銅などが必要です。これらの栄養素の過不足があると、神経伝達物質のバランスが乱れ、心の落ちつきが失われることがあります。
つまり、これらの栄養素は、心の健康に重要な役割を果たしているといえます。

(2)心の状態に関わるシナプスでのメチレーションが適正に行われること

専門的な内容になりますが、メチレーションとは、細胞内で特定の分子に「メチル基」と呼ばれる小さな化学的なタグを付けるプロセスになります。このプロセスによって、DNAやタンパク質が修飾され、遺伝子の活性化や抑制が制御されます。
脳のシナプスにおいても、メチレーションは神経伝達物質の取り込みを調節し、感情や行動に影響を与えるとされています。
したがって、心の不調を感じた場合には、カラダの状態や栄養状態を確認し、適切な対策を検討する必要があるのです。

“心”を整えるためにできること

心の問題にアプローチするためには、脳をはじめ、腸の問題や生活環境の問題など、さまざまな可能性を検討することが大切です。また、それらの可能性が複雑に絡み合い、不調につながっているケースも考えられます。
そこで、まず始めてほしいのが、食事・運動・睡眠の生活習慣の基本となることを整えることです。至ってシンプルなことでありながら、非常に重要なことなのでまず率先して意識していきましょう。

「気(き)」の不調には漢方薬を

次に、それを補う役目として漢方薬があります。
心の問題にアプローチできるとされる漢方薬には、「加味帰脾湯(かみきひとう)」や「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」、「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」、「桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」などたくさんあり、心とカラダの状態に合わせて、処方されます。
注意点としては、個々の体質や体調によって処方される漢方薬が異なりますので、専門の医師や薬剤師に相談して、自分に合った漢方薬を選んでもらうことが大事です。

心の問題で悩んだときは、シンプルな養生に加え、漢方薬も選択肢に加えて改善を目指してみてはいかがでしょうか。

ご存じですか?

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師が漢方独自の診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

こちらも参考に!

漢方に詳しい病院・医師検索サイト紹介

https://www.kampo-view.com/clinic
Mar 29 2024

薬剤師・大久保 愛

関連コンテンツ