玉田真由美先生に聞く「漢方の魅力」と「秋冬のケア」
女性のココロとカラダの健康を応援する「漢方」。
その歴史は古い一方で、医学部の教育ガイドラインの到達目標に「和漢薬を解説できる」という項目が加わったのは2001年とつい最近のこと。以降、少しずつ漢方の講義が行われるようになり、2007年度に全大学すべての医学教育カリキュラムに漢方が組み込まれるようになりました。「漢方」が医学教育カリキュラムの必須項目でなかった時代に西洋医学を学んだ現役医師の多くは、さまざまなきっかけを通じて漢方に興味を持ち、知識を得て、日々の診察に取り入れています。
今回は「女性専用外来」のクリニックとして、漢方も含めた内科的視点で女性の健康をサポートする麻布ミューズクリニック院長の玉田真由美先生にお話を伺いました。
西洋医学+漢方医学=やりがい
玉田先生も、自らの経験を通じて漢方を知り、日々の診療に活かしている医師の一人です。
興味を持ったきっかけは、意外にも“医師として”ではなく、“一人の患者として治療を受けたこと”だったといいます。
学生時代から月経痛がひどく、「大量の鎮痛薬が欠かせないほど。痛みで倒れ、救急車で運ばれてしまうこともありました。」と当時を振り返る玉田先生。西洋医学的な治療も試みましたが、吐き気が強く、長く続けられなかったそうです。
「そんな体調を心配してくださった先輩医師に勧められたのが、漢方でした。」
勤め先の病院に月に1度来ていた漢方に詳しい医師に診てもらい、処方された漢方薬を服用すると、徐々に月経痛が軽くなってきたのだとか。
「問診と脈や舌を診るだけで、どうして不調の原因がわかるのだろう。それに何だか分からないけれど効いている。それは不思議な体験でした。」
最初の印象をそう語る、玉田先生。その後、漢方と真剣に向き合うため、最初は独学で、次に慶應義塾大学病院漢方医学センターで研鑽を積みます。
「わたし自身の経験から、副作用など何らかの理由で西洋医学的な治療を続けることがむずかしくても、漢方薬で改善できる症状があることがわかりました。漢方を勉強しようと思ったのは、自身のつらい症状が改善した経験と、もう一つ理由があります。西洋医学的に異常が見つからない場合、治療の必要がないとされがちですが、それでも不快症状に苦しむ方はいらっしゃいます。そういったときに、漢方薬で改善するものが多々あるにもかかわらず、漢方の知識がないから患者さんに処方できないというのは、医師として怠慢ではないかと考えたからです。」
西洋医学に漢方医学の視点を加えた日々の診療では、治療の引き出しが増えたことを実感しているという玉田先生。それが「やりがいにつながっている」といいます。
患者さんのカラダ全体を診て治療をする
玉田先生の専門は消化器内科で、胃腸の病気を中心に診ていました。
それに対して、漢方医学センターでは専門以外の産婦人科や皮膚科、整形外科、精神科など、さまざまな診療科の患者さんが、漢方を頼って訪ねてきます。意外にも、漢方を学ぶことで、専門以外の診療科の知識も身につけることができたと、玉田先生。
「皮膚症状を訴えて受診された方に、胃腸機能の低下を認めた場合
漢方の良さについて聞くと、「患者さんに『検査で異常がないから』と言って、帰さなくてよくなりました。」と、うれしそうな表情を見せた玉田先生。
「症状があるのに原因が分からない、異常がないと言われるのは、患者さんにとって大変苦しいことだと思います。西洋医学的な検査では問題がなくても、舌を診たり、脈をとったり、お腹を触ったりすると、何かしらの漢方医学的な所見(問題)があることも少なくありません。そういうことを説明するだけでも、患者さんはほっとした顔をなさいます。不快な症状をおこす原因があるということは、そこを改善すれば、症状が軽くなるということにつながりますよね。それを聞いて安心されるのでしょう。」
その一方で、漢方オンリーではなく、「西洋医学と両方を活かすこと」が必要とも。
「例えば喘息発作など、しっかりと抑える必要があるときは、西洋医学的な治療を行う。そういう場合は、西洋薬によって出やすい副作用を緩和する治療や体質改善に漢方を取り入れる。両方のいいとこ取りをすることが大切です。」
医者にしては持病が多いと打ち明ける玉田先生。ときに、自身の病気の経験を話します。
「患者さんに訴えたいのは、“あきらめないでほしい”ということ。きちんと自分のカラダに向き合って、治療をしていけば健康を取り戻すことができる。これはずっと伝えていきたいことですね。」
西洋医学と漢方医学のいいとこ取りを推奨する玉田先生に、この秋冬で起こりやすい不調やそのケアについて、伺いました。
秋冬もやっぱり気を付けたい“冷え”
秋の長雨、朝晩の寒暖の差などで、何かと体調を崩しやすい秋、そして寒さが身に染みる冬――。こんな季節も『漢方=KAMPO』的ケアで、ココロとカラダの健康をしっかりとキープしたいところです。
玉田先生は、「これからの季節は、夏の不調を持ち越しやすい。具体的な症状ではなく“なんとなく調子が悪い”などと訴える人が増えます。放っておくとこじらせてしまうので、早めの対応が大切。」と訴えます。
クリニックを受診する患者さんが、多かれ少なかれ抱えているのが“冷え”。
暖かい部屋に入ってもなかなか温まらない、痛みを感じるぐらい冷える、足先だけがどうしても温まらずしもやけを作ってしまう、お腹が冷えて月経痛がひどくなった・・・。夏の冷えも意外と多いものですが、秋冬になると冷えの症状は深刻さを増します。
「実際に外気が寒く、熱を奪われてしまうので“冷え”を強く感じます。特に女性は男性よりも筋肉量が少なく、寒い時期でもスカートを履くなどカラダを冷やす服装をしやすいので、しっかり“冷え対策”をしてほしいですね。」
“こたつでアイス”はなぜいけない?
玉田先生が“冷え対策”で最初にアドバイスするのは、ライフスタイルの見直し。冷えている女子は、気がつかないところで“冷えやすい生活”をしていることが多いのだそうです。
「冷たい飲みものは控えているけれど、“こたつでアイス”がやめられない、とかですね。胃腸を冷やすことは冷えを悪化させるだけでなく、あらゆる不調を引き起こしやすくする原因にもなります。」
そういう患者さんには、「生活を見直すことが優先。クスリだけでは治りません。」と、少し厳しく言い聞かせることも。
その一方で、先生のアドバイスを元に、ライフスタイルを見直していった患者さんの中には、1年ほどで“冷え”が解消した上、10キロの減量で適正体重になったという人もいるそうです。
「最近は、“糖質をまったく摂らない方法”や“数日間の断食”などで、体調を崩して“冷え”がひどくなる患者さんもいます。そういう極端なダイエットに頼らなくても、毎食、すべてのお皿から、食べる量を1〜2スプーン分だけ減らすことや、毎日10分だけ運動をとり入れるなど、日々のちょっとした工夫で、冷えずにダイエットすることも可能。そういうことを皆さんに知っていただけたらうれしいです。」
“冷え対策”で重要なのはカラダを温める心がけ
ライフスタイルの見直しができたら、そこに“冷えない生活”をプラスする。玉田先生はこうアドバイスします。
「まずは、“自宅では腹巻きやレッグウォーマーでお腹周りや足首を温める”、“お風呂に入ってカラダを温め、入浴後はカラダが冷めないように、汗がひいたらすぐに温かい服装に着替える”、“歯磨きのときのスクワットやテレビのコマーシャルの間だけストレッチなど、空いている時間を使ってカラダを動かす”という3つは心がけてください。」
食養生の部分では、旬のものをできるだけ摂ることが大事。ちなみに、カラダを温める代表的な食材といえば“ショウガ”と答える方も多いですが、玉田先生によると、じつは生の生姜では冷えは改善しないとのこと。摂取した際に一時的に温かく感じるだけで、冷えの改善にはつながらないそうです。「漢方では生姜を蒸して干した乾姜(カンキョウ)という生薬が冷え改善に使用されます。ご自宅で取り入れる場合には、生ではなく、せめて蒸す、加熱するなど、ひと手間加えるようにしてとりいれましょう。」
KAMPO的ライフスタイルでいつまでもステキに
“冷え”に限らず、月経のトラブルや日々のストレスなどで不調を起こしやすい女性。
玉田先生は、「自分のココロとカラダに上手に向き合えば、こじらせる前に対策を取ることができる」と言います。また、その“気づき”が大切なのだとか。
そして、こうしたケアは単なる病気予防や健康維持ではなく、キレイにもつながるとのこと。
「例えば、肩こりがつらいという人には肩回しを勧めますが、これには肩こり解消だけでなく、首回りのリンパの流れがよくなり、小顔になるという効果もあります。足首を冷やさないようにレッグウォーマーなどを履いて過ごすことで、足のむくみも予防できます。」
小さな不調を放っておかず、一つひとつていねいにケアをする。
“未病”の段階からアプローチするKAMPO的なライフスタイルで、ココロもカラダも元気いっぱいの秋冬を過ごしたいもの。
「季節や天候などによっても、人の体調は変わります。最近ちょっと体調が悪い、どこで診てもらったらいいか分からない不快な症状がある、そんな方は一人で悩んでいないで、一度、医療機関で相談してみるといいと思います。」
麻布ミューズクリニック
院長玉田 真由美先生
熊本大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院医学研究科修了。
熊本大学医学部附属病院第二内科(現:血液膠原病内科)入局後、熊本大学医学部附属病院を中心に熊本県内の病院で内科診療に従事したのち、亀田総合病院附属幕張クリニックで消化器内視鏡検査の研鑚を積む。
慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御部門にて癌の代謝を中心に研究を行い学位取得。
自身の体調不良が漢方治療で改善されたことをきっかけに、慶應義塾大学漢方医学センター、自治医科大学東洋医学部門、麻布ミューズクリニックにて漢方を学び、2016年4月より麻布ミューズクリニック院長就任。自治医科大学地域医療学センター東洋医学部門非常勤講師。医学博士・日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医 ・日本東洋医学会漢方専門医
医療ライター・山内