まとめ

不妊症とは
不妊症とは「なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態」(日本生殖医学会)をいいます。
不妊症の治療
不妊症治療には、「原因となる病気を治す」ために行われるものと、「人工的に妊娠させる(生殖医療)」ために行われるものがあります。原因となる病気の治療には、ホルモン薬や手術などがあり、生殖医療では、タイミング法や人工授精、体外受精、顕微授精などがあります。
漢方医学では、不妊に結びつきやすいカラダの問題を漢方独自の視点で見つけ出し、それを生活習慣の改善や漢方薬によって改善していくことで、妊娠しやすい体づくりを行っていきます。西洋医学的な治療と対立するものではなく、漢方薬を併用しながら不妊治療を進めることも可能です。
病院での診察
漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。不妊症とはあまり関係ないように思われることやふだんの生活について詳しく尋ねたり、舌を診たり、お腹や脈を触ったりして診察をしていきます。漢方の力をしっかりカラダに届かせるためにも、医師や薬剤師と二人三脚で治療にあたることが大事です。
女性不妊

不妊症のメカニズム

不妊症とは「なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態」(日本生殖医学会)をいいます。 妊娠を望む男女が避妊をしないで性行為をしても「妊娠できない」状態が続けば、不妊症なのですが、その期間については、これまでは「1年間」とされてきたものの、昨今は年齢によって異なるという考え方が出てきています。
つまり、一般的に妊娠しにくいとされる年齢(35歳以上)であれば、その期間が1年に満たなくても不妊症と考えて、何らかの治療をしたほうがよい、というわけです。

不妊症に対する治療(生殖医療)は近年、わが国でも多くのカップルが受けるようになってきていて、自然妊娠以外の方法で子どもを授かる人たちが増えています。日本産婦人科学会の調査によると、国内で2021年に行われた体外受精(不妊治療のひとつ)によって生まれた子は、前年より9,416人多い6万9,797人で、過去最多でした。

妊娠は、男性側の精子と女性側の卵子がなければ成り立ちません。そのため、不妊症の原因は男性にもあり、その割合は半々ともいわれています。そのような中で、こちらでは「女性の不妊」について取り上げます。
妊娠に関わる臓器・器官には大きく、卵子や精子の通り道であり、受精卵を着床まで育てる卵管、卵子を作り排卵する卵巣、受精卵を育てる子宮があります。そしてそのいずれかに問題があると、妊娠しにくい状態が生まれます。具体的にみていきましょう。

① 卵管の問題 卵管が原因で不妊症になる問題のひとつは、性感染症です。クラミジア感染症によって卵管が狭くなったり、塞がったりしてしまうと妊娠しにくくなります。また、子宮内膜症で内膜が増殖し、卵管が詰まってしまうことも不妊の原因になります。
② 卵巣(排卵)の問題 月経のある女性であれば、月に1回排卵します。ところが何らかの理由で排卵がたまにしか起こらないと、それだけ妊娠がむずかしくなります。排卵障害の原因のひとつが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で、これは比較的若い女性に多いとされています。
排卵の状況は月経でもわかります。月経不順や無月経の人は一度、婦人科で相談してみることをお勧めします。
③ 子宮(内膜)の問題 子宮内腔に子宮筋腫や子宮内膜ポリープがあると、受精卵が子宮内膜に着床できにくくなります。そのため、妊娠しにくくなることがあります。
④ 子宮頚管粘液の問題 良好精子が来ても子宮内に迎え入れにくい状態です。

こうした原因のほかにも、甲状腺やホルモンの病気、太りすぎ・やせすぎなどによって妊娠しにくくなることもあります。ただし、妊娠は現代の医学では解明できていない部分も多く、原因がわからない不妊も少なくありません。
一方で、加齢と妊娠しにくさについては関連があり、さまざまなデータからみても35歳を過ぎると妊娠しにくくなることがわかっています。

不妊症の治療

不妊症治療の最終目的は「子どもを授かる」ことです。したがって、その方法としては「原因となる病気を治す」ために行われるものと、「人工的に妊娠させる(生殖医療)」ために行われるものがあります。
原因となる病気、不調には先に挙げたような子宮内膜症や子宮筋腫などがあります。これらはホルモン薬や手術などによって治療します。原因となる病気がよくなれば自然妊娠も可能です。
一方、生殖医療については自然妊娠を狙うのではなく、医療の力を借りて妊娠を目指します。その方法には以下のようなものがあります。

生殖医療の種類

タイミング法 排卵日を基礎体温などから予測して性交する
人工授精 採取した精子を子宮に直接、注入する
体外受精 採取した精子を卵子に振りかけて体外で受精させ、培養して胚になった段階で子宮に移植する
顕微授精 顕微鏡下で精子をピックアップし、卵子に直接注入して受精。培養して胚になった段階で子宮に移植する

生殖医療を行う際、排卵が起こらなかったり、排卵しても卵子が育たなかったりする場合は、排卵誘発剤の飲み薬や注射薬による治療も加わります。
排卵誘発剤を使うと、一度にたくさんの卵子を採取できることが少なくありません。その場合は、受精させた卵子を凍結して保存しておき、次の移植(凍結胚移植)に使うのが、最近では一般的です(それ以上の妊娠を望まない場合、受精卵は破棄されます)。

こうした生殖医療は2022年までは自由診療で行われていましたが、2023年4月からは人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」について健康保険が認められています。生殖医療の保険診療については、専門のクリニックや医師に聞いてみるといいでしょう。

女性不妊の漢方医学による治療

先に見てきたように、西洋医学における生殖医療は日進月歩で進んでいます。そのため、すべてではありませんが、不妊で悩まれている多くのカップルで子どもを授かることができています。
一方、こうした治療を受けてもなかなか妊娠できないということもありますし、何より治療にはお金もかかります。自然な妊娠を望む声もあるでしょう。そんなときに助けになるのが漢方による不妊治療です。

漢方では、不妊に結びつきやすいカラダの問題を漢方独自の視点で見つけ出し、それを生活習慣の改善や漢方薬によって改善していくことで、妊娠しやすい体づくりを行っていきます。西洋医学的な生殖医療と対立するものではなく、漢方薬を併用しながら不妊治療を進めることも可能です。

昨今の女性の不妊で問題となっているのが、ストレスです。
日々の仕事や家事などで不満を抱えることも多いでしょうし、また妊活中であれば妊娠できない状態が続くと、「なんで私だけ」と気持ちにもなります。
こうした過度のストレスが、排卵や月経に影響を与え、不妊につながるケースもあると考えられています。

排卵や月経は脳の視床下部という部分でコントロールしていますが、生殖機能はその個体にとって決して優先順位が高くありません。強いストレスがかかった個体を守るため、生殖という部分を後回しにしてしまうのです。
こうしたストレスに対しては、ヨガやストレッチなどの軽めの運動をする、ゆったりお風呂に入るといった、ストレスケアが大事です。

そして、あわせて漢方治療を行うこともできます。
漢方では「気・血・水(き・けつ・すい)」という考え方があり、これらが上手くカラダを巡っていると健康であるとされています。ストレスがあると、このなかの気の巡りに何らかの問題が出てきます。さらにそれを放置していると、それが血や水などにも影響が及びます。ストレスが原因で月経不順になるというのは、漢方的な見方でいうと気の問題が血に影響を及ぼしている、ということになるわけです。

冷えに関してもそうです。何らかの理由で自律神経が乱れ、体温調節が行われにくくなると、冷えの症状が起こってきます。冷えというのは単に体が冷たく、つらいだけではなく、さまざまな病気が引き起こされたり、症状がより強く現れたりする原因にもなります。
自律神経、ストレス、冷え症の影響を受けて不妊の原因につながることもあります。
気・血・水のバランスを整え、体のはたらきをよくして、症状を抑えていくことを目的とする漢方治療にとって、まさに熱を作る機能が落ちている冷え症の治療は、得意とするところです。

不妊治療と漢方薬

月経不順を改善 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、温経湯(うんけいとう)など
ストレスによる症状を改善 加味逍遙散(かみしょうようさん)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)など
手足の冷えや冷え症を改善 温経湯(うんけいとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)など
胃腸の弱い方 六君子湯(りっくんしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など
過多月経・月経困難症を改善 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)など

また、漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。「望診」、「聞診」、「問診」、「切診」と呼ばれるこれらは、その方の体質・気質(証)を知り、薬を決めるための手がかりになりますので、重要です。

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

Naoko女性クリニック 院長 髙宮城 直子先生
髙宮城 直子 先生

産婦人科専門医/日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医/更年期と加齢のヘルスケア学会九州世話人およびメノポーズカウンセラー/女性ヘルスケアアドバイザー
1986年佐賀医科大学(現 佐賀大学医学部)卒業、同大学産婦人科学教室 入局。1987年琉球大学医学部産婦人科学教室 入局。1990年同大学医学部産婦人科学教室 助手。1992-2008年糸数病院・ウィメンズクリニック糸数 勤務。1995-1996年米国コーネル大学医学部生殖医学センター 留学。2010年Naoko女性クリニック開業。2019年女性医療ネットワーク 理事。2020年日本女性財団理事(フェムシップドクター)。
所属学会 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本女性医学学会、更年期と加齢のヘルスケア学会、日本東洋医学学会、日本女性心身医学会

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