悩み別漢方

PMS(月経前症候群)

まとめ

PMS(月経前症候群)とは
月経(生理)が始まる3日~10日ぐらい前から決まって起こるさまざまな症状をまとめて、PMS(月経前症候群)と言います。
症状は落ち込み、イライラ、不安感、腹部膨満感、便秘、頭痛、乳房の痛み、むくみ、食欲不振(あるいは過食)など多様で、月経が始まると自然に治まったり、軽くなったりするのが特徴です。
PMS(月経前症候群)の治療
症状が軽い場合は、とくに治療の必要はありませんが、重い場合は婦人科の受診をおすすめします。痛みには鎮痛薬、むくみには利尿薬、精神症状には抗不安薬や抗うつ薬、睡眠導入薬など、症状に応じた薬が処方されます。
病院での診察
漢方薬は一剤でいくつもの症状に効くこともあるため、PMS(月経前症候群)のような多くの症状が一度に出るような病気にはとくに向いています。またとくに顕著な症状がある場合は、その症状に対して西洋薬を用いるというように、併用して治療することも可能です。
PMS(月経前症候群)

PMS(月経前症候群)のメカニズム

月経(生理)が始まる3日~10日ぐらい前から決まって起こるさまざまな症状をまとめて、「月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome 月経前緊張症とも)」と言います。症状は落ち込み、イライラ、不安感、腹部膨満感、便秘、頭痛、乳房の痛み、むくみ、食欲不振(あるいは過食)など多様で、月経が始まると自然に治まったり、軽くなったりするのが特徴です。個人差はありますが、月経のある女性の多くがPMS(月経前症候群)を経験し、そのうち毎月、同じように症状が現れる人は3~8割と言われています。

PMS(月経前症候群)の症状

体に現れる症状 心に現れる症状
腹部膨満感(お腹の張り)・腹痛・便秘・下痢・吐き気・頭痛・乳房痛・乳房の張り・腰痛・過食・食欲不振・肩こり・むくみ・めまい・肌荒れ・ニキビ・動悸 など 抑うつ症状・イライラ・不安感・集中力の低下・無気力・疲労・睡眠過多・不眠 など

上の表のように、便秘になる人もいれば、下痢になる人もいます。また眠れない人もいれば、一日中眠くて仕方ないという人も。このように症状が多彩な上、人によって現れる症状にかなりの差があるのがPMS(月経前症候群)です。

PMS(月経前症候群)が起こる原因ははっきりしていませんが、女性ホルモンが関わっていると考えられています。女性には月経周期がありますが、排卵を終えると卵胞ホルモン(エストロゲン)に変わって、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌がさかんになります。そして妊娠しなかったときは、黄体ホルモンの分泌が急に減り、ふたたび卵胞ホルモンの分泌が増えてきます。

ホルモンの変化と基礎体温

女性のカラダのしくみと女性ホルモン
女性の健康と漢方「女性のカラダのしくみと女性ホルモン」より

このように排卵から月経までは女性ホルモンの分泌のバランスが大きく変化するため、さまざまな症状が起こってくるのではないかと考えられています。

症状が軽い場合は、とくに治療の必要はありませんが、仕事に集中できない、眠れないなど、日常生活に支障が出るほど症状が重い場合は、婦人科の受診をおすすめします。
痛みには鎮痛薬、むくみには利尿薬、精神症状には抗不安薬や抗うつ薬、睡眠導入薬など、症状に応じた薬が処方されます。

治療とは別に、PMS(月経前症候群)では、月経前の過ごし方に工夫をすることも大切です。ハードなスケジュールを入れない、リラックスする時間を作る、睡眠や休息をたっぷりとるなど、少し余裕を持って過ごすと、症状は少し解消されることがあります。
また、症状はつらいものですが、そのことばかり考えているとそれ自体がストレスになり、症状を悪化させる原因にもなりかねません。月経は女性に必要なものととらえて、前向きに考えることも大切です。

PMS(月経前症候群)対策

●ハードなスケジュールを入れない
●睡眠と休息をたっぷりとる
●自分なりのリラックス法を試して、気持ちをリフレッシュさせる
●ゆっくりとお風呂に浸かる
●カフェイン・アルコール・タバコを控える
●ビタミン・ミネラル類をとる

※最近では、PMS(月経前症候群)のなかでも日常生活をふつうに送ることがまったくできなくなる重症のものを、「PMDD(月経前不快気分障害)」として、診断されることがあります。治療法などは、基本的にはPMS(月経前症候群)と同じになります。

漢方薬による治療

昔から「漢方薬は女性の味方」と言われていますが、PMS(月経前症候群)のような多彩な症状にも漢方薬は有効です。
興味深いことに、漢方の古典「傷寒論(しょうかんろん)」のなかにも、月経前症候群という名前こそ出てきませんが、「ふつうの状態ではない状況が、月経が始まるともとに戻る」というふうに書かれていて、漢方処方が記されています。このことからも、大昔からPMS(月経前症候群)が存在していて、多くの女性を悩ませてきたことが推測できます。

漢方の考え方には「気・血・水(き・けつ・すい)」というものがあります。PMS(月経前症候群)は気・血・水のすべてのバランスが乱れている状態、血の異常「お血」、水の異常「水毒」、気の異常「気滞」「気逆」などが複合的に起こっていると考えられています。
「お血」とは血液循環が滞っている状態で、頭痛や肩こり、腹部膨満感などをもたらします。「月経(血)の流れによってお血が解消されることで、お血にまつわるさまざまな症状が緩和される」と言うわけです。
水毒は水分のアンバランスが起こっていることを指し、むくみやめまい、吐き気などが生じます。
一方、気の異常は、まさに精神的な症状の原因になっています。

お血 頭痛・肩こり・腹痛 など
水毒 むくみ・めまい・吐き気 など
気の異常 イライラ・抑うつ症状・不安感・集中力の低下・無気力 など

漢方では、問診や腹診、脈診などをもとに、その人の体質と気・血・水のどこに問題があるかを考慮し、その結果をもって漢方薬が処方されます。たとえば、お血が強くて、体格が比較的しっかりとしている人には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、気の異常がとくに顕著で、体力がある人には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などが挙げられます。

PMS(月経前症候群)による不調に有効な漢方薬

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、抑肝散(よくかんさん)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、五苓散(ごれいさん) など

漢方薬は一剤でいくつもの症状に効くこともあるため、PMS(月経前症候群)のような多彩な症状が一度に出るような病気にはとくに向いています。またとくに症状が顕著な場合は、その症状に対して西洋薬を用いるというように、併用して治療することも可能です。
漢方薬の服用と合わせて、前述したように月経前の過ごし方を工夫していくと効果的でしょう。

漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、ご自身の症状とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも病気の原因を探るために必要な診察です。

医療用漢方製剤はお近くの医療機関で処方してもらうこともできます。
ご自身の症状で気になることがありましたら、一度かかりつけ医にご相談ください。
(すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。)

監修医師

ダイナメディカル根津クリニック
院長
定形 綾香先生
定形 綾香 先生

医学博士。東京大学医学部卒業、同大学アレルギーリウマチ内科入局。東京大学院博士課程終了。都立墨東病院女性専用外来開設より尽力し、ダイナメディカル根津クリニックを開設。漢方医学は松田邦夫先生に師事。

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